つんく♂プロデューサーの仕事論「通勤中に観察力を鍛える」
モーニング娘。’14をはじめ、ハロー!プロジェクトのアイドルたちをプロデュースするつんく♂氏。週刊SPA!2月11・18日合併号「ハロプロの逆襲」内では、今後のビジョンについて語ってもらった。だが、真に彼のスゴいのは、独自の仕事論。エンターテインメントの世界に限らず、すべての社会人に役立つ彼の仕事論を聞いた。
◆同時に複数の曲をストックしておく
ハロー!プロジェクトの総合プロデュースを始めて16年間、これまでにつんく♂氏はコンスタントに年間100曲以上を制作。モーニング娘。’14、Berryz工房、℃-ute、スマイレージ、Juice=Juiceと各グループごとに特定のカラーを出し、差別化を計っている。しかし、それほど多くの曲作りを手掛け、混乱しないのだろうか?
「一応“今日はBerryz工房の曲を作ろう”という感じで、あらかじめ決めて曲作りはしています。ただ、もちろん作業を進めていくうちに“やっぱりスマイレージかな”っていうこともある。その辺は臨機応変に対応していますよ。『イジワルしないで 抱きしめてよ』なんかは、℃-ute用に書き始めた曲なんですが、途中で“Juice=Juiceのほうがいいかな”と思って変更したパターン。昔でいう太陽とシスコムーンみたいなカッコいい曲で、Juice=Juiceの5人ではまだ歌いこなせないかもしれないんですけど、そのズレみたいな部分が逆に面白い。その辺は最終的に感覚の世界ですね」
しかし、仕事には締め切りというものが付きまとう。もしBerryz工房用の曲が作業の途中でスマイレージの新曲に変わってしまえば、Berryz工房の新曲締め切りに間に合わない。いったいどうするのか?
「そういうケースにも対応できるように、同時に複数の楽曲を走らせているんです。今はダブルA面だったり、カップリング曲違いの3パターン同時発売などがありますから。僕の場合、Berryz工房用にA、B、Cと3曲を進めつつ、スマイレージ用にはD、E、Fの曲を考える。それで最終的に調整していく感じですかね。それも、余裕を持って締め切りを守っていないと無理な話ですが」
同時に6つの曲作りを進められるとは、さすがつんく♂氏。だが、そうした備えがあるからこそ、よりいい仕事へ繫げることができる。
◆クリエイティブな発想に大切なのは観察力
また、つんく♂サウンドは、等身大な少女の心境を綴った歌詞も秀逸である。ハロー!プロジェクトのメンバーからは「なぜ、つんく♂さんは女の子の気持ちがこんなにわかるのか?」という疑問の声があがり、新宿2丁目でも多くのニューハーフたちから共感を集めている。45歳になった今もリアルな乙女心を描けるのはなぜなのか?
「ズバリ観察力ですね。普遍的なことを、いかに吸い上げられるか? たとえば℃-uteの曲に『通学ベクトル』というのがあるんです。これは、雨の日だけバスに乗る男の子がいて、その様子を女の子が眺めているという設定の曲。その設定というのは特別なことではなくて、誰もが青春時代に見たことがある風景なんですよ。
要は、それを覚えているかどうかというだけの差です。雨だから髪の毛がくせっ毛になって困るとか、野球部の男子が廊下を歩くときに鳴るスパイクの音。陸上部とは違うスパイクの音とか。そういう時代が変わっても普遍的な細かい部分のディティールを覚えているかどうかなんですよ。それを感じた印象のまま歌詞に落とし込む。それには、観察力が必要になってくるわけです」
つんく♂氏によると、この観察力というのは日常の中で習慣化しないと鍛えられないらしい。この観察力を鍛える行為こそ、「一流の仕事人」の条件と言えそうだ。
「僕は、自分の会社の部下にも伝えているんです。“昨日、会社から家に帰るまでの途中、何があったか言ってみろ”って。でも、みんなは覚えていない。“は?”って顔をするんですよ。例えば、駅から会社までの道のりに、花屋があって22時まで開いてて、この信号機を青で通過すると、3つ目の信号で必ず赤になるとか。新しいパン屋ができていて、その定休日は日曜日で、コンビニでは○○○キャンペーンが始まってて…というような事に気がつくかどうか。同じように見える光景も、正確には昨日とまったく同じということはないんです。
そういうことを覚えている人は、何をやっても優秀。何も覚えていない人は、どんな経験をしても吸収できない。印象に残ったことだけをバーっと話すだけなら、子供でもできます。それではダメなんですよ。印象に残っていないことも、いかにすくい取ることができるか? そこが他人と差をつけるポイントだと思うんですよね」
通勤途中で、ただスマホをイジってばかりいるだけではなく、周囲に目をくばり、些細な事象も見逃さない。その細かい観察力を養うことが、仕事のデキる男への第一歩。他人と差をつける“力”になるのかもしれない。 <取材・文/小野田 衛>
【つんく♂氏】
日本を代表する音楽プロデューサー。ハロー!プロジェクトをプロデュースし、楽曲提供は年間100曲を超える。’13年には、結成25周年を迎えたシャ乱Qを本格再始動させた出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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