長与千種が語る新団体旗揚げの真相「今の女子プロレスには技術はあっても色気が足りない!」
3月22日、元クラッシュギャルズの長与千種が自身のプロデュース興行「That’s 女子プロレス」を開催した。5年ぶりのマット復活となった長与は、第1試合で極悪同盟のダンプ松本らと対戦。ブル中野にフォークでメッタ刺しにされ流血しながらも、最後はダンプからフォールを奪った。
だが、本当のサプライズはメインの試合終了後に起こる。マイクを持った長与は、唐突に新団体・MARVELOUSの旗揚げを宣言。「残された人生が20年か30年かはわかりませんが、大好きなプロレスのために頑張ろうと思います!」と叫んだのだ。
後日、改めて長与千種に話を伺った。まず単純な疑問として、なぜこのタイミングでプロレス界に復帰すると決意したのだろうか? 現在、長与は居酒屋2店とドッグサロンを経営。それぞれ事業は順調に軌道に乗っている。つまり長与の場合、食うに困ってプロレスに戻るというわけではまったくないのだ。むしろ生活基盤を考えるなら、戻らないほうがいいように思えるのだが……。
さらにつけ加えるなら、現在の女子プロレス界は一部でイキのいい新人が現れたりしているものの、全体としては停滞しているのが正直なところ。クラッシュギャルズが一世を風靡した80年代はもちろん、全日本女子プロレス(以下・全女)、JWP、LLPWなどが鎬を削った90年代の団体対抗戦時代の熱気にも遠く及ばない。
だが意外なことに、長与は今の女子プロレスを「めちゃくちゃいい感じですよ!」と手放しで絶賛する。
「プロレスのスキルということに関しては、今の若いコたちは非常にレベルが高い。はっきり言って、自分たちがクラッシュや極悪同盟で盛り上げていた時代よりも全然プロレスの質は上ですね。とにかく動きはハイブリッドだし、選手も真剣に頑張っている。だから、まったく悲観していないんですよ。ものすごいことをやっているなと本当に感心します」
今のプロレスは確実に進化している。懐古主義的に「昔はよかった」と振り返る姿勢は、長与には皆無なのだ。しかし同時に、最近のプロレスには“語れる要素”が少なくなっていることも冷静に指摘する。
「難しいのは、いくらリング上のプロレスが洗練されていても、観る人の印象に残らなければ意味がないんですよね。車でたとえるなら、燃費のいいハイブリッドカーよりも無駄の多いアメ車のほうが、味があって心に残ったりするじゃないですか。“感動”というのは、感情が動くと書くわけでね。つまり試合を観ることで、明日から仕事や勉強を頑張ろうとしたりする。そういうふうに人々の感情をプロレスで揺さぶっていきたいんです」
新団体・MARVELOUSのリングに、長与は選手として上がるつもりは毛頭ない。このことは逆説的に長与の本気度を表しているといっていい。「昔の名前で出ています」といった40代以上のベテラン選手が幅を利かせる今の女子プロレス界にあって、若手中心のまったく新しいプロレス・スタイルを作り上げようと長与は企んでいるのだ。すでに新人募集はかけており、新設する道場の候補地も絞っている段階だという。
「新人の育成に関してですが、ロープワークや受身といったプロレスの技術的なことは他の選手に教えてもらうつもりです。今の若いコは教えたら動けるから、そこは心配していない。自分が教えるとしたら、それ以外のところ。そのコの底に眠っている可能性を引き出してあげたいんです。喜怒哀楽を爆発させる作業を手助けする感じで。やっぱり一流のレスラーっていうのは、独特の雰囲気を持っているんですよ。北斗晶や神取忍にしたって、入場だけで魅せるオーラがありますし。自分が教えるのは自分ならではの存在感の出し方だったり、同じことをやってもよりお客さんにアピールする方法だったり、要するにプロレスの本質に迫る部分なんです」
レスラーたちが好んで使うプロレス用語のひとつに「サイコロジー」というものがある。これは「リング上から観客の心理をコントロールし、興行を成立させる」という意味で使われることが多い。昔から長与はこのプロレス的なサイコロジーが天才的だと言われており、それゆえに試合で熱狂的な信者を獲得してきたのだ。
⇒【後編】に続く「新団体はいっぱしの企業として恥ずかしくない団体を目指す」https://nikkan-spa.jp/623456
<取材・文/小野田 衛 撮影/丸山剛史>
【長与 千種】
ながよ・ちぐさ 64年12月8日生まれ。長崎県出身。80年8月8日、田園コロシアム、大森ゆかり戦でデビュー。84年8月にライオネス飛鳥とクラッシュギャルズを結成し女子プロレス黄金時代を牽引した。
●長与千種オフィシャルサイト MarvelCompany(http://www.marvelcompany.co.jp)出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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