更新日:2014年10月30日 22:19
スポーツ

Jリーグ観戦マナーを巡ってサポーターが毎週晒される異常事態

 浦和レッズのサポーターが「JAPANESE ONLY」の横断幕を掲げ、これを差別だとしてJリーグは浦和に対して無観客試合という厳しい制裁を与えた。この一件がきっかけになり、サポーターたちの間で観戦を巡るマナーについて議論が沸騰。応援の在り方などについてネット上を中心に激しい意見のやり取りが起こり、それは今なお続いている。  だが、ここにきて、話が少々おかしな方向に向かい始めている。事の発端は9月28日のJ2、松本山雅FC対コンサドーレ札幌での試合で、アウェイで来ていた札幌のサポーター男性が松本山雅FCのホームゴール裏で、松本山雅FCに向けて中指を立てて挑発。これがTwitter上で写真と共に拡散され、コンサドーレ札幌は公式に謝罪。両軍サポーター、及びその他サポーター入り乱れて応援の在り方の議論が白熱した。  主な主張はこんな感じだ。 ・中指を立てるようなヤツはサッカーを見に来るな! ・相手をリスペクトできないのは民度が低い証拠 ・中指を立てたり、下品な行為や汚い野次をするヤツが多いと一般のファンが来られなくなる ・海外ならこんなん普通とか言ってるヤツ、ここは日本だから。それにいちいち海外の話を引き合いに出すな  といった糾弾する意見と、 ・興奮して中指立てるくらいいいじゃないか ・ゴール裏は盛り上がっている場所だからある程度の暴走は認めるべき ・そもそもTwitterなどで晒しあげることのものか? いちいち晒すな  などの擁護まではいかないが、まぁまぁ、そんなに騒がなくとも……という意見が真っ向から対立。札幌のサポーターの中からも自軍のサポーターの“愚挙”に怒り、松本山雅FCのサポーターに“謝罪”する者も現れあっちゃこっちゃでいろんな人々の思いが交差したのである。  そして、数日が経ち、ようやく落ち着いたと思われたのだが、さらに“燃料”は投下される。10月4日、味の素フィールド西が丘で行われたJ2、横浜FC対松本山雅FC戦で、横浜FCホームのゴール裏席にいた横浜FC サポーターがグラウンド方向を向いて中指を立て、これに対してまたもやクラブが公式に謝罪することになったのである。  この一件にネット上では「昨日の今日で同じことやるな」といった意見から、「また、松本山雅FCの試合で……」や「これからは松本の試合はボクシンググローブはめて観なきゃダメだな」などのウィットに富んだ意見が飛び交った。だが、さらにさらに事態は思わぬ方向へと進むというか、またしても“燃料”が投下されてしまったのである。  今度は10月11日のJ2、モンティディオ山形対ヴィファーレン長崎の試合で、グランドに向かって中指を立てる山形のサポーター男性が中継の画像に映り、それをキャプチャーした画像がTwitter上でアップされたのである。  これに対して、さすがに3週連続で“晒しあげ”が起きたことに呆れかえる意見が一挙に噴出したのである。 ・もうこれからは毎週中指立てるヤツが晒されるな。来週はどこ? ・今週の中指は山形でした! ・粗探ししにスタジアム行ってるのか? 試合ちゃんと見とけ!  そしてもちろんのことながら山形は公式に謝罪するも、事態はあらぬ方向へ。なんと長崎のサポーター団体がこの謝罪を拒否したのである。以下、少々長いのだが記事を抜粋しよう。 ================= (以下抜粋)
ULTRA NAGASAKI WEST END公式BLOG

ULTRA NAGASAKI WEST END公式BLOG より

 10月11日(土)にNDソフトスタジアム山形にて開催された、J2リーグ第36節 モンテディオ山形対V・ファーレン長崎戦の後半試合中にモンテディオ山形サポーターによる相手選手への挑発的行為があったとのことで、モンテディオ山形より試合を観戦された方と、V・ファーレン長崎の関係者の方々に謝罪が発表されました。  我々ウルトラ長崎は、この謝罪を断固として拒否させて頂きます。 なぜなら、何も謝罪されるような行為はなかったと考えているからです。 「モンテディオ山形サポーターによる相手選手への挑発的行為があった」とのことですが、挑発行為のどこがいけないのでしょうか? 「みなさまが楽しく快適にスタジアムで観戦が出来るよう、モンテディオ山形はクラブ関係者、ならびにサポーターのみなさまにJリーグとクラブが共に掲げる「ソーシャル・フェアプレー」の実現に向けた活動を継続して進めてまいります。」とあります。  ソーシャル・フェアプレーとはなんでしょう? ・反社会的勢力との関係遮断。『暴力団等排除宣言』(2012年2月~) ・差別の根絶 ・Jリーグとして社会的責任を果たす  だそうです。  挑発行為は、どれにも当たらないと思われます。 「みなさまにおかれましては、観戦ルールの順守を改めてお願い申し上げます。」とのことです。  観戦ルールのJリーグ統一禁止事項に、「差別的、侮辱的もしくは公序良俗に反する言動の禁止※当該言動が上記に該当するかは主管クラブが判断することとします」と言うのがありますが、挑発行為が禁止とはなっていません。  それはそうでしょう。ある特定のチームを応援するということは、大なり小なり挑発行為が発生します。絶対に勝つとは、相手が必ず負けると言っているのと同じ意味なので、人によっては挑発行為ととらえるでしょう。 「絶対に負けられない戦いがある」なんて、こんな弱小駄目チームに負ける訳がないと言っているんだな、という解釈をする人がいるかもしれません。 ものすごい挑発発言です(笑)  自分たちのチームが点数を入れた時に喜ぶということは、相手チームの失点を喜んでいるというこですから、完全に挑発行為です。  つまり挑発行為が禁止事項となれば、特定のチームに対する応援は全て禁止になりかねないということになります。そんな馬鹿な話はありません。 (中略)  断罪されるべきは、自分の価値観と違うからと言って、独善的な正義感を振りかざし、他人の価値観を否定する行為です。  中指を立てる行為をしているサポーターから「お前も中指立てろよ」って強制されるのは嫌でしょう?  中指を立てるなよって他人に強制する行為は、中指を立てろよって他人に強制する行為と何も変わりません。  価値観が違うだけです。  今回の騒動の発端は、長崎のサポーターのtwitterにもあったようです。  自分と違う価値観を認めず、独善的な正義感で他人を断罪するサポーターが長崎にいたということは、とても悲しいことです。  ただ、それ以上に深刻な問題は、コンサドーレにしろ横浜FCにしろモンテディオにしろ、憲法で保障されている基本的人権を侵害している可能性のある行為を、クラブ側が行っているという現実です。  そのような基本的人権侵害する可能性のある行為をするクラブの興行しているスタジアムで、子供からお年寄りまでが安心して快適に観戦出来るはずがありません。  各クラブも色々な苦情が入って大変だとは思いますが、ある特定の価値観だけで物事を判断しないように、毅然とした態度をしめして頂きたいと思います。  ちなみに、ウルトラ長崎は、中指を立てる行為を推奨する気は一切ありません(笑)  我々に対して中指を立てる挑発行為が行われた場合、俄然闘争心が燃え上がり、こんなやつらに絶対に負けたくないと普段以上に応援に気持ちが入るでしょう。  だからこそ、勝った時は何倍も喜びが増しますし、負けた時は死ぬほど悔しく、次回は絶対に負けまいとさらに応援に力が入ります。  挑発行為というのは、サッカー観戦のスパイスです。  人それぞれによってまずいスパイスもあれば、うまいスパイスもあるでしょう。でも、どちらにしろスパイスの効いていない料理は、単調で多くの人々を魅了することはないでしょう。  そのようなつまらないスタジアムになってほしくないと、ウルトラ長崎は考えています。 (抜粋以上) 2014年10月12日 ウルトラ長崎の考え ULTRA NAGASAKI WEST ENDのブログより =================  “被害者”である長崎側が“大人”の対応をしたのである。このブログがアップされると、各方面からはまたも賞賛と批判が噴出し白熱した議論になったのである。  あくまでも筆者の個人的な意見だが、中指を立てたり汚い野次を飛ばしたりすることはよくないと思うのだが、いちいちTwitterなどソーシャルメディアで晒しあげたところで何も変わらないようにも思えるし、一連の過剰とも言えるクラブ側の対応にも首をかしげたくなる。Jリーグの試合中継を執り行うテレビ制作会社のディレクターに話を聞いた。 「浦和の一件以降、全体的にかなりナーバスになっていますね。ちょっとしたゲーフラ(注1)や横断幕の内容について口出しするクラブは増えてると思う。さすがに無観客試合を連発しないとは思うけど、制裁を受けると資金的に厳しいクラブも多くあるからなぁ……。今回の中指騒動だけど、まぁ、僕らからすると面倒くさいなぁってのが本音ですね(苦笑)。ゴールしたり、拮抗した試合で盛り上がる観客席の雰囲気を抜くのってアクセント的にやるわけ。スタジアムの雰囲気を伝えて、見てる人も盛り上げるのって大事じゃないですか。僕らの中継のせいで来てくれるお客さんが出入り禁止や晒されたら、そりゃやっぱり気分よくないよ。試合中に盛り上がってる客席を抜けなく(映せなく)なっちゃうからね。そりゃ、死ね!とか言うのはダメだと思うんだけど、ある程度は“盛り上がっている”ってことにしとけばいいんじゃないかな」 (*注1:ゲートフラッグ・ファンやサポーターが思い思いの言葉やイラストを描いて掲げる旗のこと)  また、こうした騒動を知らない一般の人はどう思ったのだろうか。筆者の周辺でサッカーをまったく見ない人に何人か意見を聞いてみた。 「う~ん、中指立てる人がいるようなとこにも行きたくないんだけど、ちょっとハメを外したら写真撮られてネットで流されちゃうことのほうが怖いかも」(32歳・女性・飲食店) 「こんなんでダメなら、阪神ファンはみんな出禁になるな(笑)」(38歳・男性・会社員) 「海外では差別的な表現(特に人種差別)は公の場所でやったら完全にアウト。スポーツでも差別的な野次は観客でも厳しく取り締まるんだけど……中指ももちろんやっちゃダメだよ、特にアメリカは。でも、こんな1人、2人がやったくらいでクラブが公式に謝罪するのはどうかと思うよ。あと、ネットにわざわざ流すのもちょっとなぁって思う」(アメリカ、ロンドン在住経験ありの40代男性)  主立った意見を3つ、紹介させていただいた。  中指を立てる人がいることよりも、それを写真に撮られてネットに流されることの方が怖いと感じるのは、一般の人の意見として貴重ではなかろうか。注意を喚起するためとはいえ、一般の人の感覚からしたら「もしも自分が……」と思うと、怖くてサッカーなんか観に行けないと思うのも無理はない。また、野球とサッカーで競技も中身も違うのだが、野球好きからするとやはり「?」と感じるようだ。確かに野球の野次は本当にとんでもないこと言ってたりすることもあるので……。そして、海外在住経験者からすれば、差別はあかんけどやっぱりやり過ぎじゃないのかという“おおらか”な意見も参考にできるのではなかろうか。  いずれにせよ、スタジアムで暴走した人物が毎週ネットで晒されることはやはり異常事態と言っていいだろう。  20年を迎えたJリーグ。サポーターの観戦マナーについての議論が起きることは、ある意味、成熟してきた証拠ともいえよう。差別や誹謗中傷は絶対にダメだが、スポーツは地域や所属によってある程度の挑発がアクセントになって選手や観客が盛り上がる側面は否めない。がんじがらめに約款で縛り上げてしまうと、窮屈になってしまい観客減に繋がるようにも思える。それは音楽や飲酒を厳しく取り締まった逗子の海水浴場を見れば一目瞭然だ。  世界一安全なスタジアムを合い言葉に育ってきたJリーグは、その目標を達成しつつある。節度ある日本人サポーターは先のブラジルワールドカップでも賞賛を集めた。そして、海外からやって来たサポーターは口々に日本のスタジアムの安全性を口にする。観戦の在り方やマナーについて、ある意味、過渡期を迎えているのかもしれない。まぁ、こんなことで盛り上がるよりもせっかくJ2は湘南が優勝を決めて、昇格争いも熱くなってきているのだから、そっちの方で盛り上がっていきたいものである。 <取材・文/SPA!スポーツ取材班>
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