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知らない親戚の借金を相続!? 急増する相続トラブルの対処法

「ドラマのような話で、まさか自分にこんなことが起こるなんて……というのが正直な感想です」  どことなく疲れた顔で話を始めたのは、都内に住む有村佐智子さん(仮名33歳)だ。有村さんの身に降りかかったドラマのような話の発端は遺産。それもほとんど面識のない親戚が残した遺産が発端だ。 「母は3人兄妹で、兄と妹がいます。遺産のトラブルはその母の兄、私からすると叔父にあたる人です。叔父さんは、祖父母の財産をギャンブルやわけのわからない事業で散財し、お金を持ち逃げして祖父母から半ば勘当されていました。母と叔母からも借金をしたりしてて、兄妹仲は破綻。私も子どもの頃に一、二度会ったことがあるくらいでした。祖父母はもう、他界しているのですが、葬式にも出なかったとお母さんから聞いてます」  もちろん電話やメール、年賀状などのやりとりもない。そんな仲であるにも関わらず、なぜ突然トラブルになったのだろうか。 「ある日、叔父の妻という人からお母さんに電話があったんです。叔父さんに奥さんがいたこともお母さんはこの時、初めて知ったんですが、その電話で叔父さんが癌で亡くなったと知らされたんです。てっきりお葬式の案内かと思ったらしいんですが、お母さんからすればもう、どうでもいい人だからって断ろうとしたらお葬式じゃなくて、叔父さんが残した借金があって、お母さんは相続人にあたるから借金を支払う義務があると……」 ◆相続のトラブルが発生する要因とは?
東京国際司法書士事務所の代表司法書士・鈴木敏弘氏

数多くの相続問題を解決してきた司法書士の鈴木敏弘氏。「日本では死ぬことを想定して話すこと、生前に遺産相続について語ることが、なんとはなしにタブー視されていますが、もっとオープンに話し合ってもいいと思います」

 結局、有村さんは相続放棄をすることで借金を背負うことはなかったのだが、こうした遺産相続によるトラブルは近年増加傾向にあるという。『相続税は3年で0(ゼロ)にできる。』の著者でもある、東京国際司法書士事務所代表の鈴木敏弘司法書士に話を聞いた。 「遺産は相続の手続きをする際に、相続手続書類へ相続する権利がある全ての人の実印による押印が必要になります。配偶者は常に相続人そして、直系卑属(子、孫)、直系尊属(父母、祖父母)、兄弟姉妹という順で相続権が発生します。例えば父母、祖父母は死去。配偶者はいるが、子はいない場合は配偶者と亡くなった方の兄弟が相続人になるといった具合ですね」  ここで起こるのがよく、テレビドラマなどで引き起こされるシチュエーションだ。腹違いの兄弟、音信不通の叔父や叔母、内緒の借金や税金の滞納などが噴出するなど、まるでドラマのようなことが現実に噴出することは珍しくないという。 「よくあるトラブルとしては、自分が介護をしたから他の兄弟の法定相続分よりも多く欲しいといったことから、亡くなった父や母が実は再婚で腹違いの兄弟が何人もいて、さらにその方は亡くなっていて子供が何人も……調べたら北は北海道から南は九州まで、相続人が15人も出てきたなんてケースもあります」  先述したように遺産を相続手続きする際は相続する権利がある全ての人の実印の押印が必要となる。そのため、遺産を相続する際には遺産の算出に加え、誰に相続する権利があるかを調べなければならない。その過程で問題が噴出するのである。 「子供が多くいるなど、相続人が多くいるとトラブルが起きる確率は上がりますが、逆に子供がいなくてトラブルになるケースも最近では珍しくありません。子供がいない場合、配偶者だけではなく亡くなった方の兄弟、その兄弟が亡くなっている場合はその子(甥や姪)というように相続する権利が発生することがあります」  こうなると「なんであの人に遺産をやらなきゃならんのだ!」という思いが出てくることは想像に難くない。やりたくないという思いと、貰えるものなら貰いたい……こうした思いがトラブルの火種になるのである。トラブルを未然に防ぐために抜群の効果を発揮するのが、そう、遺言書なのだ。 「遺言書に財産の分配をしっかりと書いておけば、亡くなった方の兄弟、その兄弟が亡くなっている場合はその子というような方には遺産を渡さなくてもよくなります。配偶者、子、直系尊属には遺留分というものがあり、これは民法で定められている相続人が最低限相続できる財産のことですが遺留分を請求できるのは先述した、配偶者、子、直系尊属だけです。先述した亡くなった方の兄弟、その兄弟が亡くなっている場合はその子らに遺産を渡したくない場合は遺言書に『遺産は全て妻に』と書けば、よいわけです」 ◆遺言書作成が思わぬトラブルを……  だが、よかれと思って書かれた遺言書がトラブルを引き起こすこともあるという。 「よくあるのが、自筆の遺言書のトラブルです。自筆の遺言書には4つの条件が必要になります。1.全文を自署、2.押印、3.日付を記載、4.署名。この4つが満たされなければ、法的な拘束力はありません。また、財産について曖昧な記述があると、金融機関や不動産の名義変更の手続きができないこともあります」  また、こんなケースもあったという。 「遺言書を銀行の貸金庫に入れる方は要注意です。仮に遺言書の中身が特定の人への分配について書かれていても、貸金庫の借り主が亡くなった場合、貸金庫を開けるためには遺産相続する権利が発生している人全ての捺印が必要となります。ドラマなどではよくあるのですが、遺言書を貸金庫に入れておくのはオススメできませんね」  では、トラブルにならない遺言書を作るためにはどんなことに注意すべきなのだろうか? 「まず、公正証書遺言で遺言書を作成し、遺言執行者を決めておくことです。遺言執行者は誰でもいいのですが、トラブルや面倒が起きそうな場合はあらかじめ司法書士や弁護士など専門家にお願いした方がいいですね。また、遺留分を超えた額を相続させたい場合、例えば介護してくれた長女に多めに財産を渡したいというようなケースですね。この場合、他の兄弟を納得させるために付言(ふげん)を付けておくといいでしょう。付言とはお手紙みたいなもので、法的拘束力はありませんが亡くなった方の意思を伝えるものです。『長女の分が多いのは、私の最期まで介護を続けてくれたからなので、納得してもらいたい』などと書いておいたりします。最近流行のエンディングノートなども付言の類いです」 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=773598  遺言書も効果的ではあるが、鈴木氏は生前から遺産相続について家族で話し合うことも重要だという。 「遺言書というと仰々しい感じがしますが、遺言書を残すことは海外では当たり前です。日本では死ぬことを想定して話すこと、生前に遺産相続について語ることが、なんとはなしにタブー視されていますが、もっとオープンに話し合ってもいいと思います。死んだ後に残された人がトラブルになれば、あまりいい思いはできないはずです」  この他にも、銀行口座をあまり多く作らず生前に金融機関の口座をできるだけまとめておく、株などは証券会社の手続きが非常に面倒になることも頭に入れて置いた方がいいだろう。  30代、40代の方の親御さんは団塊の世代でこれから先、遺産の相続問題が身近なものになってくる。年末年始、実家に帰省する方も多いだろう。遺産相続や遺言書について話し合ってみるのもいいかもしれない。 <取材・文/日刊SPA!取材班> 【鈴木敏弘】 東京国際司法書士事務所の代表司法書士。相続対策コンサルタント。東海大学理工学部卒。東証一部上場企業メーカーに就職後、司法書士試験に合格。日本で最大手の司法書士事務所で役員に就任し、様々な法律問題を解決。平成24年に独立。今年11月には『相続税は3年で0(ゼロ)にできる。』(リンダパブリッシャーズ)を上梓。
相続税は3年で0(ゼロ)にできる。

1000件の相続トラブルを解決した相続専門司法書士が教える

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