カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第15講・中国にとっての世界恐慌」

孫文

孫文

ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

孫文が失敗した理由


 20世紀に入ると、中国でも近代化の恩恵を受けた民族資本が育ち、清王朝を打倒する革命運動が盛り上がってきます。中国のブルジョワ(経営者・資本家)階級である民族資本は当初、中国国内よりも、マレーシア、シンガポールをはじめとする東南アジア諸国などで台頭しました。清王朝の監視から逃れ、海外で活躍する彼らは華僑と呼ばれます。

 民族資本は政治的なリーダーとして、孫文を担ぎ上げ、資金援助していました。孫文は外国で成功していた華僑の勢力を結集し、革命運動を展開します。しかし、孫文の政権基盤は極めて脆弱で、地方の封建的な大名勢力である軍閥に政権を乗っ取られます。清王朝崩壊後、軍閥は各地に割拠し、中国を分断しました。

 孫文が政権を確立することができなかった理由は、孫文の支持基盤であるブルジョワ階級の民族資本が未だ、充分に育っていなかったためです。20世紀に入り、工業化・産業化がようやく、はじまったばかりの中国において、欧米型のブルジョワ政権を確立することは不可能でした。

蒋介石の産業育成


 孫文は支持基盤の拡大を図るため、民衆・農民に接近します。貧民層を支持基盤とする共産党と連携し、1924年、第1次国共合作を成立させます。しかし、共産主義者と手を組む孫文のやり方はブルジョワ民族資本の反発を招きます。

 経営者階級であるブルジョワにとって、共産主義は脅威でした。このような状況で、孫文は求心力を発揮できず、1925年、「革命未だならず」と言い残し、病死します。孫文の死後、国民党は蒋介石に引き継がれます。蒋介石は師の孫文と違い、共産主義を徹底的に敵視し、欧米流のブルジョワ革命を目指しました。

 第1次世界大戦中、中国において、欧米製品の輸入が減少し、紡績、製鉄などの工業化が進展します。蒋介石は、ブルジョワ階級が間もなく育ち、政権の支持基盤になるだろうと見込んでいました。そして、孫文の遺言に逆らい、1927年、上海クーデタにより共産党を弾圧しました。

 同年、蒋介石は南京に国民党政府を樹立します。国民党政府はブルジョワの支持基盤を固めるために、1928年、イギリス、アメリカから関税自主権を回復します。蒋介石は関税を引き上げ、国民党政府の財源とするとともに、国内産業の保護育成に取り組みます。

銀価格の下落による好景気


 1929年、世界恐慌がはじまると、中国に有利な状況が生まれます。恐慌の影響で銀価格が1928年の1オンス(=約31g)、0.577ドルから、1932年には0.254ドルへと半分以下に下落し、歴史上の最安値をつけました。

 当時、世界で唯一銀本位制をとっていた中国では、銀価格の下落から、インフレ傾向が続き、上海金融市場に資金が流入します。上海の不動産、上海に本社を置く会社の社債など、資産価格が高騰し、バブル景気となります。

 蒋介石率いる国民党政府が産業を保護育成し、各地の軍閥を屈服させ、中国統一を進展させていたことなども、海外からの資金流入の要因でした。

 欧米経済は世界恐慌に苦しんでいた時、中国は銀本位制の特殊な状況に救われ、経済発展への機会を掴んでいました。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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