日本の戦争 何が真実なのか【第2回:特攻隊】

零戦(変更)

特攻機として使われた「零戦」

特攻隊員の犠牲と戦果


 1944年(昭和19年)10月25日、フィリピンのマバラカット基地から250キロ爆弾を搭載した零戦5機が飛び立った。神風特別攻撃隊「敷島隊」である。この5機のうちの1機が米海軍の護衛空母セント・ロー号の後部飛行甲板に激突し、同艦は爆発炎上、沈没した。同日、フィリピンのダバオ基地からは6機の特攻隊が飛び立った。また、セブ島からも2機が出撃、敷島隊が飛び立ったマバラカット基地からはさらに5機が飛び立ってアメリカ艦隊に突入している。
 
 この日の特攻攻撃により、セント・ローを撃沈させたほか、護衛空母3隻を大破、空母3隻に損害を与えている。アメリカ海軍は128機の艦載機を失い、戦死・行方不明者1500名、戦傷者は1200名という大きな被害を出した。これがたった18機の特攻隊による戦果であることを考えれば、彼らの犠牲は決して無駄ではなかったといえる。

特攻隊を支えた高い国民の戦意


 戦後になると、特攻は悲劇的な失敗作戦のようにいわれ、乗組員は無駄死にであったというイメージが残されている。しかし、そもそも死を覚悟しない戦争などありえない。最後まで生き残ることはもちろん願うべきことだが、ひとたび戦争に入れば、国内に残る人も前線に出る人も、みな死を覚悟していたのである。そうした中で戻ってこられないという状況を強く予測したものが特攻隊であったということである。ただし、特攻隊の中にも戻ってくる人もいた。

 1942年(昭和17年)8月にはじまったガダルカナル島の戦い以降、連合艦隊の艦船が次々と撃沈されていく中、こうした特攻攻撃が海軍の主力となっていった。これは残念なことではあったが、必然でもあった。本来ならば、特攻攻撃をせざるを得ない状況に追い込まれた時点で、休戦を宣言して戦いをやめ、敗戦を甘受するという選択もあったはずである。それをせずに特攻攻撃を最後まで続けたのは、軍部が圧力をかけて人々を従属させたからだといわれるが、実際はそうではなく、まだ戦意が国民にあったからである。特に、特攻隊に志願するような若者たちには非常に高い戦意があった。

特攻隊員の遺書は何を語っているか


 そうした戦意は一体何によって掻き立てられたものだったのか。その理由は特攻隊隊員の遺書を読めばわかる。その一節を引用してみよう。

「皇国の一男子として生を享けて以来二十有余年、国を挙げての聖戦に勇躍征く事を得ば、男子の本懐、正に之に過ぐるものなし。ものごころついて以来自分乍(なが)ら世才に長ぜりと感じ、幼友矢島君の男々しき武人姿をみるにつけ所詮身は軍人となれぬとは思ひ諦め居たるも、長じて茲(ここ)に征途につくを得ば、身を鴻毛(こうもう)の軽きにおき、勇みて征かんの心激しからざるはなし。(中略)

 大君に対し奉り忠義の誠を至さんことこそ、正にそれ孝なりと決し、すべて一身上の事を忘れ、後顧の憂(うれい)なく干戈(かんか)を執らんの覚悟なり。幸ひ弟妹多く兄としてのつとめは果せざるを遺憾とは思ひつつも、願はくはこれ等弟妹に父母の孝養を依頼したき心切なり。
 死すること、強(あなが)ち忠義とは考へざるも、自分は死を賭(と)して征(ゆ)く。必ず死ぬの覚悟で征く。
 萬事(ばんじ)頼む」

 これは昭和18年6月10日に書かれたものである。「死ぬ覚悟で征く」という言葉は必ずしも大義に酔っているわけではない。冷静に自分を客観視した上で命をなげうつという決断をしたもので、死を超越した心境が感じられる。そして、最後の「萬事頼む」という4文字にどれだけの思いがこもっていることか。

自分の家族や国を守るという覚悟


 三島由紀夫はこの手紙を読んで泣いたというが、この遺書に述べられていることは、国と一体となっている自分があり、それゆえに天皇を中心とした国家が敗れることがあってはならないとする大きな覚悟である。

 自国が本土決戦に直面し、敵に占領されるという事態にならないように絶対に守らなくてはならない。それは自分の家族のためでもあるし、国のためでもあり、国民のためでもある――そう考えるのはこの人物だけではなかったと思う。あるいは日本人に限られるわけでもあるまい。

 特攻隊による攻撃は日本の周囲でしか起こっていない。遠方に出征していた兵士の中にも同じ気持ちを抱いていた者はいたと思われるが、実際には日本周辺に多数の敵が近づいてくるという状況の中で、国を守るために命を捧げる覚悟を持つ若者が出てきたということである。これが無駄死にであったとか、兵士たちがかわいそうだとかという見方はあたらない。おそらく今日でも、当時と同じ立場に立たされたならば、こうした覚悟を持つ人々が出現することは十分に考え得ることだろう。国家を守るとは、究極的には自らの命をなげうつという覚悟を抱くところにまで、人を引きつけていくものなのである。

(出典/田中英道著『日本の戦争 何が真実なのか』育鵬社)

【田中英道(たなか・ひでみち)】
東北大学名誉教授。日本国史学会代表。
著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』(いずれも育鵬社)ほか多数。

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