日本の文化 本当は何がすごいのか【第10回:戦争と日本人】

神楽演目八岐大蛇(変更)

神楽演目八岐大蛇(やまたのおろち)

日本人は好戦的か?


 日本は軍国主義だったといわれ、好戦的な民族として語られました。日中、日韓の外交交渉の場などでは、常にといっていいほど「正しい歴史認識」ということがもち出されます。日本は朝鮮半島を侵略し、大陸を侵略し大変な被害を与えた、というわけですが、その土台にあるのが、日本人は好戦的民族であるという認識です。このことを日本人が自覚することが「正しい歴史認識」である、ということなのでしょう。

 しかし、これは日本の文化、日本人のあり方を理解していないところから出てくる見方です。冷静に、というよりも素直に、ヨーロッパの、中国の、モンゴルの、そして日本の歴史を見て、文化を比べれば、それは容易にわかることです。

 日本人ほど戦いを避けようと努力する民族はありません。おそらく世界で一番戦争が少ない民族、戦争の死者が少ない民族ではないでしょうか。

神話に表れている日本人の国民性


 そのことはまず神話に現れます。日本の神は殺し合うことがありません。

 天手力男命(あめのたぢからのおのみこと)という神がいます。天岩戸を素手で押さえてやっとばかりに押し開き、天照大神を引き出したという豪腕の神です。でも、その豪腕を使って戦った形跡はまったくありません。

 出雲の国譲りでは、建御雷之男神(たけみかずちのおのかみ)が大国主命(おおくにぬしのみこと)のもとに遣わされ、その子建御名方神(たけみなかたのかみ)とのあいだに確かに争いが起こりました。しかし、素手で相撲のように戦い、殺し合うようなことはしません。

 素戔鳴尊(すさのおのみこと)という乱暴者の神が登場します。天照大神が天岩屋に隠れたのも、素戔鳴尊が乱暴を働いたからです。しかし、この素戔鳴尊も神同士で戦い、殺したりはしません。素戔鳴尊が戦って殺すのは、八岐大蛇(やまたのおろち)です。人間ではない動物です。人間ではない動物でも殺すから、素戔鳴尊は乱暴者なのです。
 

「戦争のない時代」が出現した稀有な歴史


 人間には牙がありません。爪も殺すようにはできていません。人間そのものが争わない、争って殺してはならないのが本来のあり方なのだ、という認識がそこにはあります。そしてこれは、日本文化の基盤でもあるのです。

 もっとも、後の時代には源平の争乱があり、戦国時代があります。これはどうなのだ、ということになります。しかし、これらの戦いの死者を世界史的に見れば、非常に少ないことに気付きます。これに比べれば、ヨーロッパの、中国の、モンゴルの殺戮(さつりく)ぶりは圧倒的です。殺さないのが人間本来のあり方という文化は、戦いの中でも脈々としています。そして日本には平安時代や江戸時代のように、二百年、三百年と戦争のない時代が出現します。このような例は世界にありません。

 しかし、これは日本の内部でのことです。異なる文化をもつ民族と接触した場合はどうなのでしょうか。

八幡神は異民族の侵入の脅威によって共同体の守り神になった


 八幡様のよび名で親しい八幡神は戦争の神です。この八幡神は九州の宇佐神社にはじまり、初めは九州地方の神でした。大陸に近く、異なった文化をもつ異民族の脅威が八幡神を生み出したのです。八幡神は武家政権の地鎌倉に鶴岡八幡宮として祀られ、北条氏はこれを奉じて攻めてきた元軍と戦い、日本の共同体を守り抜きました。こうして八幡神は共同体の守り神として非常に格式の高い神になっていきます。

日本の対外姿勢は常に防御的・防衛的


 これでもわかるように、日本人は外部に対しては終始防御的、防衛的です。戦争についてのこの姿勢は、その後も現在に至るまで一貫しています。

 近代になると外部との接触が増え、南下するロシアの進出が脅威となり、これに対抗して朝鮮半島に進出せざるを得なくなり、満州を建国せざるを得なくなりました。ABCD包囲網を受けて資源を絶たれる瀬戸際に追い込まれ、戦端を開かざるを得ませんでした。すべて防御的、防衛的です。

 その中で豊臣秀吉の朝鮮出兵が、日本が能動的に外に出ていった唯一の例外、といわれたりもします。しかしこれさえも、イエズス会を押し立ててスペイン、ポルトガルの勢力がフィリピンを侵し、脅威が迫っていることに対して、敏感に反応したからにほかなりません。

 争いを避け、殺し合わないのが人間本来のあり方、という文化は、日本の揺るぎない伝統なのです。

 日本人は平和を愛する民族である。これは確信していいことです。

(出典/田中英道著『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』育鵬社)

【田中英道(たなか・ひでみち)】
東北大学名誉教授。日本国史学会代表。
著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』(いずれも育鵬社)ほか多数。

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