日本の文化 本当は何がすごいのか【第11回:南蛮文化と日本人】

彦根藩鉄砲隊(変更)

南蛮からもたらされた鉄砲を日本人はたちまち自分たちでつくりあげ鉄砲大国になった(写真は彦根藩鉄砲隊)

好奇心旺盛な日本人とキリスト教の受容の歴史

 日本人は異質の文化と出合っても、とっさに拒否的な反応になることはありません。それよりも、これはなんだろうという好奇心の方が勝つのです。歴史的に見ても、ずっとそうでした。南蛮文化、つまりヨーロッパ文化との出合いも同じでした。そのことをキリスト教の受容と拒否の経緯をたどって見てみましょう。    日本にもたらされたキリスト教、キリシタンは日本人の宗教的感性、自然信仰や御霊信仰といったまさに神道的なものとなんら抵触しないと受け止められました。キリスト教は愛の宗教、個人宗教として理解されたのです。    このことは、例えばマリア観音といういい方に如実に表れています。    仏教もまた愛の宗教であり、個人宗教です。日本人は仏教をそう理解して受容したのです。その仏教には男性的な存在として釈迦如来があり、女性的なものとして観音菩薩があります。これになぞらえて日本人はキリストを男性的な釈迦と対比させ、マリア様を観音菩薩と受け止めたのです。    マリア様を聖書における、あるいは神学におけるキリストの母として受け入れるのではなく、これは美術の分野には盛んに見られて聖書にはない概念ですが、母親的な、女性的な、無限の包容力をもった愛のシンボルとしての聖母、と理解したわけです。そして、それは仏教における菩薩観音とぴったり重なり合います。マリア観音です。    このように受け止めた日本人にとって、キリスト教の受容は容易だったでしょう。ザビエルを皮切りにイエズス会の宣教師の来日によって、キリシタンは爆発的に広がりました。それは数十万人を数えたと思われます。

日本のキリスト教徒が1%を超えない理由

 しかし、キリスト教側、つまりイエズス会の宣教師はこの理解の仕方を認めませんでした。イエズス会の宣教師はキリスト教のもつ共同宗教的な側面に日本人が目を向けず、個人宗教としてとらえることが受け入れられなかったのです。宣教師たちは結局、日本人の理解の仕方を拒否しました。これがキリシタン弾圧を招く一因ともなり、キリシタンは激減しました。江戸時代になるとキリスト教は禁教となり、キリシタンは逼塞してしまいます。  明治になってキリスト教の禁教は解かれ、布教の自由が認められました。活発な布教活動が行われました。しかし、キリスト教の共同宗教の側面は日本人の宗教感性にはもっとも相容れないものです。キリスト教側がその側面を押し出すかぎり、日本人は受け入れようとはしません。日本のキリスト教徒がなかなか一パーセントを超えられないのはそれ故です。  歴史に見る日本人のキリスト教受容と拒否の経緯は、異なった文化に接したときの日本の特徴をよく表しています。

南蛮文化の受容と変容――火縄銃からウォシュレットまで

 カステラやカッパなど、ポルトガル語やスペイン語に由来する言葉がいくつも残っているように、日本は南蛮文化を受け入れました。しかし、南蛮文化をそのままに受け入れていないことに気がつきます。  たとえば、天ぷらです。これは魚に粉をまぶして油で揚げる、フランスでいうフリッツに由来します。しかし、フリッツといえば粉で包む食材はまず魚と決まっていますが、天ぷらはそうではありません。粉で包む食材は魚にかぎりません。魚介類から野菜にまで広がって実に多種多様です。そしてフリッツと天ぷらを並べてみると、まったく異質のものになっているのがわかります。  キリスト教のマリア様をマリア観音として理解し受け入れたのも、まったく同じです。対象を日本人の感性に合ったものにして理解し、受け入れ、より日本に合うようにつくり替え、ついには完全に消化して、日本ならではのものにしてしまう。これは異文化に接して受け入れる日本人の特徴的スタイルです。南蛮文化をそのまま受け入れ、そのまま使った例は、銃くらいではないでしょうか。そしてこれは、トイレに便座という座る形が入れば、それにウォシュレットを付け加えるというように、現代の技術革新にも受け継がれているスタイルです。  半面、キリスト教が日本で広がらなかったことでもわかるように、受け入れられないものは、決して受け入れようとはしません。日本人のもつ文化的すごさは、そこにも見られます。 (出典/田中英道著『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』(いずれも育鵬社)ほか多数。
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