中学校歴史教科書で「聖徳太子」が復活した!(1)――パブリックコメントで文部科学省が異例の方針転換

厩戸王(聖徳太子)へのパブリックコメントが殺到

 聖徳太子の名称をこれまで通りに戻す――3月20日に産経新聞、朝日新聞が報道し、翌日、各社も一斉に報道した。
「聖徳太子・復活へ」の記事(産経新聞3月20日)

「聖徳太子・復活へ」の記事(産経新聞3月20日)

 焦点となっていたのは、文部科学省が2月に公表した中学校の次期学習指導要領の社会科【歴史】の改訂案で、日本史上、重要人物の一人である聖徳太子を()書きにして、厩戸王(聖徳太子)と表記する方針を打ち出していた点である。ちなみに厩戸王は「うまやどのおう」と読む。  これを現行の学習指導要領(平成20年3月告示)通りに聖徳太子をメインとして、聖徳太子(厩戸皇子[おうじ])と表記することで最終調整が行われていると報道された。  文科省は、この改訂案に対するパブリックコメント(政策に関する意見募集)を3月15日まで行ったが、その「総数は1万1210件で、そのうちの4割にあたる約4600件が『聖徳太子』について」であったという(『つくる会FAX通信』3月25日号より)。聖徳太子を厩戸王と呼称することに対する、国民からの強烈な反対と読み取れる。  この件は国会でも問題になり、笠浩史衆院議員(民進党)や松沢成文参院議員(無所属)が、それぞれの文部科学委員会で質問していた。  こうした反響を受け文科省は、次期学習指導要領案の「歴史用語」の変更に関して、異例ともいえる方針転換表明を行ったのである。最終的には、今月3月末に次期学習指導要領は確定して公示される。

10年に一度改訂される学習指導要領は、どのように作られるか

 そもそも、学習指導要領は、どのように作られるのか。  学習指導要領は、おおむね10年前後に一度、改訂され、その改訂内容に基づき教科書会社は教科書を編集し直し、学校現場では新しいカリキュラム(教育課程)に基づき児童・生徒に授業を行う。こうした性格のため、学習指導要領の改訂作業は、膨大な手間暇がかけられる。  文科省の担当部署は、義務教育を担当する初等中等教育局の中の教育課程課であり、(1)課長をトップとして、(2)主任視学官、(3)視学官、(4)教科調査官(国立教育政策研究所に所属)というラインがある。  ここが学習指導要領の原案を作成し、中央教育審議会(中教審)の中の教育課程部会や教育課程企画特別部会に諮られ、中教審の総会で答申がまとめられる構図である。  今回の歴史用語の変更に関しては、上記の(4)教科調査官(小中学校の教員出身)⇒(3)視学官(ベテランの教科調査官)⇒主任視学官(文科省キャリア)のボトムアップで原案がつくられ、そのまま中教審の各部会や総会で了承された経緯という(自民党の山田宏参院議員の『言論テレビ』3月10日放送などより)。

歴史用語の変更は「勇み足」?

 教科調査官や視学官は、小中学校の教員出身者であり、「アクティブラーニング」といった教科をどう教えるかの教育方法についてはプロ中のプロであるが、歴史用語の詳細にわたる機微については、歴史教育に造詣の深い専門家の意見を聞く必要がある。  仮に、中教審の各部会を含め、歴史用語の変更に関して専門家から詳しいヒヤリングを重ねていなかったとしたら、勇み足だったのではないか。  その一方で次期学習指導要領案では、世界史重視の観点から「ムスリム商人」(イスラム教徒の商人)という用語を新規に加えるなど、専門家からのヒヤリングの形跡もうかがえる。(続く) (文責=育鵬社編集部M)
もう一度学ぶ日本史

聖徳太子も掲載。実際の中学校用歴史教科書の再編集で読みやすい。大人の学び直しに最適。

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