世界文化遺産から読み解く世界史【第17回:マヤ・トルテカ文明の古代都市遺跡――チチェン・イツァ】

魔法使いのピラミッド(加工)

ウシュマルの「魔法使いのピラミッド」(メキシコ)

高度な天文学・建築技術を持った文明

 ユカタン半島には、チチェン・イツァという古代都市遺跡があります。これは、マヤ文明と、メキシコ中央高原に興ったトルテカ文明と融合したマヤ・トルテカ文明を代表する遺跡です。

 遺跡の南部分は5世紀頃から7世紀頃に築かれたもので、マヤ文明の特徴を持ち、天文台を備えた建造物などが築かれています。遺跡の北部分は10世紀から13世紀に建造され、マヤ・トルテカ文明の特徴を示しています。

 注目すべきは、チャクモール像やツォンパントリという生贄の儀式が行われていたことを示す遺構です。これは先ほどのテオティワカンと共通しています。人間は自然の一部だという意識が徹底すると、生贄の儀式のようなことが行われるのです。

 しかしここにも高度な天文学の知識や優れた建築技術がありました。ククルカン(羽毛の生えた蛇の意)神殿は、高さ25メートルのピラミッドの形をしています。春分の日と秋分の日、その日暮れ時になると、ピラミッドの9層の基壇の角に折れ曲がった影が映り、階段の最下部にあるククルカンの頭部像とつながって、まるで蛇が天から降りてきたように見えるのだといいます。いかに、自然信仰が強かったかを示しています。

 この時代の先住民の建築技術や、文明の特徴が、どのようなものだったのか、遺跡によってしかわからない面があります。それは後のスペイン人による徹底した破壊が影響を及ぼし、そうした実像が忘れ去られていったのです。

ピラミッドは何を意味しているのか

 マヤ文明も、トルテカ文明も、いずれの文化もピラミッドをつくっていました。これは「山をつくる」という、人間の原初的な行為、憧れがここにも発揮されているわけです。どちらも密林の中です。これは世界中、平地に山をつくるという人間の創造の原点、建造物の原点というものがここにも表されているということです。

 自然信仰とともにつくられる山の信仰が、マヤの文明には一貫しています。例えば、ユカタン半島中央部の丘陵地帯にある古代都市ウシュマルというところは7世紀初めから10世紀頃に繁栄したと推定される場所ですが、「総督の館」と呼ばれる方形の遺構は、約2万個の切石が使われた壁面に、雨神や蛇が、非常に複雑な格子模様の中に彫られています。これも自然信仰で、雨、つまり水を必要とした人々の気持ちがよく表れています。ここには、四方の稜線が丸みを帯びるようにつくられた「魔法使いのピラミッド」というものが残されています。いずれにしても、山と自然に対する信仰が、ユカタン半島の文化、マヤ文明には一貫しているのです。


(出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社

【田中英道(たなか・ひでみち)】
東北大学名誉教授。日本国史学会代表。
著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』ほか多数。

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