世界文化遺産から読み解く世界史【第18回:インカ帝国の首都――クスコ】

ロレト通り(クスコ)加工

クスコのロレト通りの石組み

スペインの銃によって滅ぼされたインカ帝国

 南米といえば、インカ帝国が有名です。ぺルーの首都クスコは、標高3400メートルの高地、山の中にあります。インカ帝国は15世紀から16世紀に繁栄したといわれています。南米最大の先住民国家でした。ここには、クスコ盆地に侵入したインカ人たちがその先住民を従えて、13世紀から14世紀頃に定住したといわれています。  ここでも太陽が信仰されました。クスコというのはインカの言葉で「へそ」という意味です。クスコが世界の中心であるということでつけられた名前なのです。その神殿や宮殿は太陽を象徴しています。これも、天照大神を信仰する神道と似ているようです。  その文化は、メキシコと同じように、スペインに占領されてしまいます。1532年のことです。ピサロの軍隊によって占領され、金銀財宝がことごとく略奪されたといわれています。  その原因は、やはり銃がなかったことです。そのために、たちまち侵略されてしまいました。  インカ帝国には、もともと鉄器と車が存在しませんでした。銃をつくる鉄がなかったのです。武器が発達していなかったのです。スペイン人の銃に対抗できる武器を持たなかったということが敗北の原因だったのです。  インカ文明は、もともと高い技術を持った文明ではあったのですが、同時に、太陽を信仰する共同宗教の文化であったと考えられます。そのことが、インカ文明が滅んでいった一つの要因になったのだと思います。  剃刀の刃一枚をも通さないといわれるロレト通りの石組みなどを見ると、彼らがたいへんすぐれた建築技術を持っていたことがわかります。しかし、輸送手段の車がなく、武器となる鉄がなかったその弱点をスペイン軍に突かれることになってしまったのです。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』ほか多数。
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