顔相が変化する[楽しくなければ闘病じゃない:心臓バイパス手術を克服したテレビマンの回想記(第46話)]

ケネディ

「アメリカ大統領選 ニクソン対ケネディのテレビ討論 テレビ映りを競った」

「俺の顔じゃない」

 退院直後、浴室の鏡で自分の顔を見て、愕然とした。全体に青白く、しわだらけで、唇からは血の気が失せている。左右の眼の大きさだってアンバランスだ。「これはどう見ても俺の顔じゃない」。  それから3週間後、ボクは2か月ぶりで、研究所に出勤した。研究所の役員に日本顔学会の副会長で、顔学会の顔役になっている女性がいた。しばらくぶりにボクの顔を見た印象を後に語ってくれた。 「頬や目もと回りがこけて、げっそりしたように見えた。肌には透明感やつやがなく、青白くやや黄ばんだ感じで、生気が感じられなかった。病気明けそのもので、心身ともに相当なダメージを受けたんだなと感じた」  ボク自身の印象は、自分の顔であるはずなのに、自分のものという実感が伴わず、魂が抜けているような顔だった。  春日武彦『顔面考』(紀伊国屋書店)によれば、こういう感覚を離人感といい、精神的なショックを受けたときなどに陥る心理状況だそうだ。  こうした感情になること自体は決して珍しいことではなく、病気とはいえない。しかし、これが嵩じると立派な精神疾患になる。   そんな顔だから鏡を見ると意気阻喪する。ボクはしばらく鏡を見ることをやめた。

顔は正直

 ボクは若いころ、長い間テレビのリポーターを勤めた。テレビは顔が勝負である。ブラウン管に映った顔を見れば本性が読みとられてしまう。  テレビの普及期、顔に対する認識や意識が膨らんだ時があった。歴史上有名なアメリカ大統領選ニクソン対ケネディのテレビ討論(1960年)ほどその認識を高めたものはない。強面(こわもて)ニクソンは顔つくりに相当苦労した。  ケネディもメーキャップには神経を使った。造作や容貌のことを言っているのではない。誠実さや知性、意思の強さ、健康さをどう顔で表現するかの問題である。  退院後のボクは、目の大きさが左右違う「雌雄眼」だった。一方はオスの目、他方はメスの目ということで、人相術では危ない顔相の一つだという。  ボクの雌雄眼はそのうち消えていったが、人間には大なり小なり左右のアンバランスはあるものだ。 脳に右脳と左脳があり、一般に論理的思考や合理的判断を司るのが左脳で、多くの人が左脳優位であるという。そのため、左脳が支配する体の右側に利き腕や利き顔がある人が多い。  反対に直感力や創造性をつかさどるのが右脳で、これは芸術家や俳優などに少なくない。タレントに左顔を好む人が多いのはそのためだそうだ。  また顔には知性や性格も現れる。類人猿の顔を額部分、目鼻部分、口あご部分の三分野に等分すると、額の広いことは人間の特徴であり、これが広いということは知性豊かなことを示し、目鼻部分は感情コントロール度合を示し、口あご部分は意思の力を示すという。  これは浅野八郎『顔相の科学』(祥伝社)からの受け売りだが、そういえば、反知性などといわれる某国大統領はおでこが極端に狭い、あるいは狭く見える。むべなるかな。

「顔」に自信が戻ってきた

 そんな大事な顔の実物を自分の目で見た人はいない。鏡かナルシストのように泉の水面で見るしかない。  退院後4か月ほど経って、意識して鏡を見た。やはり生気不足で沈んでいた。友人たちは「元気になったね」と励ましてくれたが、左右の目がまだアンバランスで、瞳孔も開いていない。  人間は、暗いときだけでなく、嬉しいときにも瞳が大きくなるという。「目は口ほどにものを言い」というがちっぽけな瞳孔はなにを言いたいのかわからない。  退院しておよそ1年後、先の顔学専門家の役員が「全く、病の面影が見当たりません。元気になったんだと顔を見ればわかります」と言ってくれた。  2年経過した今では毎日のように顔面チェックするまで自分の顔に自信が持てるようになった。  顔は健康のバロメーターだ。顔学会の顔役の顔をつぶさないように、元気にならねばとつくづく思った。 協力:東京慈恵会医科大学附属病院 【境政郎(さかい・まさお)】 1940年中国大連生まれ。1964年フジテレビジョン入社。1972~80年、商品レポーターとして番組出演。2001年常務取締役、05年エフシージー総合研究所社長、12年同会長、16年同相談役。著者に『テレビショッピング事始め』(扶桑社)、『水野成夫の時代 社会運動の闘士がフジサンケイグループを創るまで』(日本工業新聞社)、『「肥後もっこす」かく戦えり 電通創業者光永星郎と激動期の外相内田康哉の時代』(日本工業新聞社)。
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