クスリ服みのクスリ知らず[楽しくなければ闘病じゃない:心臓バイパス手術を克服したテレビマンの回想記(第47話)]
クスリのリスク
毎日7種類の薬を服んでいる。かつては10種類以上服んでいたこともある。処方科も糖尿病科、循環器科、腫瘍血液科、泌尿器科とさまざまである。自分でも何がどの薬なのか、わからないときもあった。 一方、週刊誌を中心に、「クスリのリスク」に関し、情報が氾濫し、服まなくてもよい薬を服んでいるのではないかと疑心暗鬼になるケースも少なくないようだ。 新薬の発売やジェネリック(後発医薬品)の登場で、必要な情報をどう集めるか苦労のいるところでもある。 最近は配合薬というものもある。違った薬効を持つ複数の薬を一つの薬に配合したものだ。数年前まで、ボクは血液をサラサラにするためにバイアスピリンを服用していた。 しかし、このバイアスピリンは効用あらたかだが、必ずと言っていいほど、胃などを傷めるという副作用がある。したがってこの薬を服むときにはタケプロンという胃を守る薬を合わせて服んでいた。 ところが2014年3月にこの二つの薬剤を一緒にしたタケルダという薬が登場した。いわば1度で2度効く薬である。便利になったことは言うまでもない。 しかし、薬剤管理上は注意を要することもある。タケルダを服んだ上にバイアスピリンを服むと、血液サラサラ用の薬の服みすぎになる。薬剤師に任せきり
ボクは慈恵医大病院にほど近いK薬局に長年お世話になっている。この薬局の山本美子薬剤師はボクの病歴をよくご存じだ。個人別台帳みたいなものもあって、服薬歴も整理されている。 山本さんによれば、多くの科や違う病院から処方箋をもらっている場合、あるいは入院、退院時など服用薬が変化するときには十分なチェックが不可欠だし、6種類以上の薬を服む場合は副作用にも要注意だそうである。しかし、素人には荷が重い。ボクは山本さんに任せきりだ。 大病院近くの処方箋薬局は時に門前薬局といわれ、居住地に近いかかりつけ薬局と対比される。それぞれ一長一短があるのだろうが、どちらでも長い付き合いが出来ることが大切だと思っている。 K薬局では処方に不明なものがあるときは病院に連絡を取っている。安い後発薬があるときには紹介してくれる。闘病には医師、看護師だけでなく薬剤師の協力も欠かせない。薬漬けの水上勉さん
『越前竹人形』などで有名な作家・水上勉さんは心筋梗塞を患い、闘病のために薬漬け生活を余儀なくされた(『心筋梗塞の前後』文春文庫刊)。 種類的には30種類以上の薬を、一日30錠3包も服んでいたという。導尿薬もあれば導眠薬もある。服むだけでなく坐薬もあったらしい。 その結果、幻聴や幻覚に悩まされたという。作家らしくそうした状況を「薬の作用する音を聞きながら……」と表現しているが副作用との闘いは壮絶でもある。 「この症状は薬の副作用」と推定した時には、その薬を主治医のところに持っていき、中止や変更を求めた。 ボクも服んでいたワハリンという薬は納豆との食い合わせが不可だったが、水上さんは「くそッ、納豆ぐらいは喰って死のう。そう思いきめて月に三どほど納豆を喰う日は、医師にないしょで死ぬ思いで勝手に錠剤をやすむことにした」という。ボクも納豆は好きだが、この薬をのんでいる間は納豆を我慢した。 世の中に薬が好きという人は多くはいないだろう。水上さんの文章を読むと薬に敵愾心を持っているのではないかと思うようなところもある。 ボクだって薬なしの闘病が出来ればそれに越したことはないと思っているが、それは今や望んでも詮無い話。 医食同源という言葉は「食べものも薬ですよ」という意味合いに使われるが、ボクは「薬も食事だ」と解釈している。 協力:東京慈恵会医科大学附属病院 【境政郎(さかい・まさお)】 1940年中国大連生まれ。1964年フジテレビジョン入社。1972~80年、商品レポーターとして番組出演。2001年常務取締役、05年エフシージー総合研究所社長、12年同会長、16年同相談役。著者に『テレビショッピング事始め』(扶桑社)、『水野成夫の時代 社会運動の闘士がフジサンケイグループを創るまで』(日本工業新聞社)、『「肥後もっこす」かく戦えり 電通創業者光永星郎と激動期の外相内田康哉の時代』(日本工業新聞社)。ハッシュタグ
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