高橋洋一氏は現代日本の救世主か④――金融緩和によって円安、株高、雇用増になる

『愛国のリアリズムが日本を救う』の目次(第1章、第2章)

若い世代が希望をもって社会に巣立つ

 前項で、アベノミクスによりさまざまな経済指標が劇的に良化したことを論証したが、そのアベノミクスの最大のポイントは何なのか。詳しくは本書『愛国のリアリズムが日本を救う』に記述されているが、そのエッセンスを簡単にまとめてみよう。  高橋洋一氏は、本連載の2回目で記したように1998年から3年間、米国のプリンストン大学に客員研究員として留学し、ベン・バーナンキ教授(後の米連邦準備制度理事会[FRB]議長)やポール・クルーグマン教授(後にノーベル経済学賞受賞)といった「リフレ派」の巨頭から経済学を学び、「金融緩和をすれば、円安、株高、雇用増になる」と推論・予測していた。  高橋氏のロジックは極めて簡単で次の通りだ。金融緩和は、円を相対的に増やすので、希少性がなくなり円安になる。円安になると、輸出製造業が有利になって株価が上がる。もっとも、これは金融緩和で実質金利が下がって企業収益が向上するという効果と表裏一体だ。企業収益が増えるので、派生需要である労働需要が増えて雇用が良くなる……という推論である。  高橋洋一氏は、「こうした金融緩和は、マクロ経済学教科書に書いてあるような基本的なことだ」と平然と述べている。これによって、例えば今年(2018)春の大卒就職率は98%と、3年連続で過去最高を更新している。若い世代が、希望をもって社会に巣立って行けることは、日本の社会にとってどれだけ幸せなことか。  本連載第1回目で、スーパー・ボランティアの尾畠春夫氏が、「子供は坂を下に下りるより、上に上がるのが好き」という推論に基づき、捜索を開始して20分後には行方不明になっていた2歳児を発見・救出した。的確な推論が、人の命を救い、どれだけ社会を幸せにするかを肝に銘じたいと思う。

『愛国のリアリズムが日本を救う』の目次(第3章、第4章)

財務官僚の掌で踊るだけであった民主党政権の哀れさ

 では、なぜアベノミクス以前にできなかったかという点である。高橋氏は、次のように記述する。 「2008年のリーマン・ショックで後退している景気を立て直すためにも経済政策は重要だった。しかし、(2009年9月に政権をとった)民主党の閣僚たちは行政の当事者になるには不慣れであり、各省庁の官僚をコントロールすることなどできるはずはなかった。(中略)リーマン・ショック後のアメリカでは一般物価急落を見て、金融政策のセオリー通り金融緩和を行い、経済を回復させている。……民主党政権にも、この状況を打破する機会はあった。筆者は民主党で金融セミナーを行い、鳩山由紀夫首相や菅直人首相、民主党の支持組織(当時の連合)にも『金融緩和をやれば失業率が下がり雇用が増え、経済は活性化する』と説明して『デフレ脱却議連』というものを作り、政策に入れようというところまでいった。結果はご存知の通りで、民主党政権は何も手を打たなかった。 労働者のための政党であるはずの民主党がやるべき政策を、なぜやらなかったのか。その理由は今でも分からないが、その後就任した安倍首相がこの政策を採用し、結果を出している」(本書、146~147ページ)  当時、政権をとった民主党の面々は、官僚主導ではなく、自分たちで政策を行うのだと意気盛んであったが、したたかな官僚、とりわけ財務省の術中にはまり、財務省の掌(てのひら)の中で踊るしかなかった。高橋氏は以下のように書く。 「財務省は政権をコントロールし、肝心の経済政策は棚上げされ、民主党政権で3人目の野田佳彦首相は財政再建を盾に消費増税という財務省の思惑通りの政策を決定してしまう」 (本書、146ページ)  財務省は、経済政策の大目的を財政再建に置き、高橋氏は失業率を下げ雇用を増やすことに置く。この違いは、天と地ほどの差がある。

『愛国のリアリズムが日本を救う』の目次(第5章、第6章)

 この項目では、本書の目次一覧を画像で紹介しているので、見出しをご覧いただき、高橋氏の問題意識を見ていただきたい。(【5】に続く) 文責=育鵬社編集部M
愛国のリアリズムが日本を救う

愛国に右も左もない。あるのは、日本に対する責任感だ! 左派リベラルの観念論を論破し、国益と政策的合理性の追求を解き明かした渾身の書

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