愛国のリアリズムで真贋を見分ける③――「地球市民志向の空想主義」は国を誤る

国連の安保理での討議の様子(写真UN Photo/Mark Garten)

 では、「愛国のリアリズム」の対極にある思考法は何か。

 まず、「愛国」に対しては「地球市民」という言葉を思い浮かべる人もいるだろう。自国一国にこだわらずに地球規模で、さらに国民というこだわりを捨てて市民の立場から考えるという思考法である。しかし、地球市民という立場は、ともすると「根無し草・無国籍」の思考となり、実体から遊離してしまう。

 次に、「リアリズム(現実主義)」の対義語としての「理想主義」である。理想を求めることは、いつの時代でも重要なことである。しかし、現実的な政策論、とりわけ安全保障の分野などでは、理想主義的平和論が果たしてどこまで有用たり得るのか、多いに疑問である。空理空論の空想主義になってしまうのではないか。

 少し話が脇道に入るが、戦後、必要以上にソ連や中国を美化してきた学者や教員たちがいた。社会主義国家を理想と信じたのである。

 しかし、ソ連は、チェコ侵攻(1968年)、アフガニスタン侵攻(1979年)などの侵略行為があり、また社会主義経済が破綻して国家が消滅してしまった(1991年)。

 中国は、国内では文化大革命(1965年から約10年間)、天安門事件(1989)などの過酷な人権弾圧があり、対外侵攻は、東トルキスタン(現、新疆ウイグル自治区)、チベット、中印紛争、中ソ国境紛争、中越紛争、南沙、西沙諸島など、枚挙にいとまがない。

 とりわけ、中国と親和性の高い学者は、こうした人権弾圧や覇権・侵略行為に今なお口をつぐんでいるのが不可解である。

 さて、本題に戻ろう。こうしたソ連、中国の社会主義幻想に直面した一部の学者や教員たちは、自らの「新たな飯のタネ」として、社会主義に代わり「地球市民」なる概念を打ち出したのだが、前述の通り実体がないので思考ゲームに終わっている。

国連に過度の期待は禁物


 一方、過度に国連(国際連合)に期待する国連至上主義を持つ人もいる。国連こそが、世界平和を実現してくれるという「思い込み」を持ち、熱心に生徒に教え込む。

 しかし現実では、国連には安保理(安全保障理事会)常任理事国という5か国(米、英、仏、露、中)が拒否権をもっており、自国に不都合な決議に反対するため、紛争が解決されないこともしばしば発生してきた。中国という、覇権主義・侵略行為を行っている国が拒否権を持っており、国連に過度の期待は禁物である。

 高橋洋一氏は、前作の『日本を救う最強の経済論』で、「パワーポリティクスから目を背けるな」と題して次のように述べる。

 国際政治の力学はパワーポリティクスで動いており、いわば弱肉強食の世界だ。隙を見せた方が悪いというのが国際政治だが、軍事的な牽制がなくなればパワーバランスが崩れ、その地域は一気に不安定化するだろう。
 国際社会は「なめるか、なめられるか」の世界だ。互いの実力、行動力の探り合いや、「相手が引いたら自分が押す」式の駆け引きが、国際政治の舞台ではつねに繰り広げられている。
 すべての国がほぼ均等な力で押し合い、均衡が続いている間は何も動かないが、ひとたび、どちらかが引けば、もう一方が押す。弱みや隙を見せれば、一気に付け込まれる。自国が不戦を誓っていても、そうでない国が存在するとしたら、対抗策を取らざるをえない場合もあって当然だろう。これが、今までもずっと繰り返されてきた国際政治の常識なのだ。(199ページ)

 そうであるならば、価値観を共有し合う国が同盟を結び、覇権主義・侵略行為に「集団的自衛権」で対抗し、平和を維持することが最も賢明な策となる。

 それでもなお、思い込みの強い左派系の人々は、頑なに集団的自衛権の行使に反対する。国連そのものが、「集団的自衛権」を認めているにもかかわらずだ。

「愛国のリアリズム」の対極に位置する「地球市民志向の空想主義」が、思考ゲームの域をはみ出て実際の政治で悪影響をもたらし、東アジアのパワーバランスを崩し平和を脅かすことになれば、それは、高橋洋一氏が『愛国のリアリズムが日本を救う』のあとがきで述べているように「売国のお花畑論」となってしまう。

 現実を直視し、理想と現実のギャップに気づき、両者のバランスを取りながら、理想を実現するためにも現実的な方策をとっていくことが肝要だ。

 もっと言えば、愛国をベースとして、国際社会の現実を冷静に見つめながら、自国の発展と世界との協調を目指していくのが「愛国のリアリズム」の真髄なのではないか。
【4】に続く 文責=育鵬社編集部M

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