愛国のリアリズムで真贋を見分ける⑤――文部科学省を混迷させた前川喜平・元事務次官

2017年2月7日の衆院予算員会に参考人として呼ばれた前川喜平氏(衆議院インターネット審議中継より)

 前項目で、「思い込みが強く、リアリズムの意識が希薄な人がトップに立つと、その組織は致命的なダメージを受ける」と記した。

 文部科学省がその典型である。行政機構のトップは言うまでもなく大臣であり、ほとんどの場合は政治家が就任するが、その事務を司るのは官僚であり、その事務方のトップが事務次官である。文科省の場合、前川喜平氏が2016年6月に事務次官に就任し、混迷がはじまった。

 前川氏は、2017年1月に天下り問題で引責辞任。その後、綱紀粛正が図られるはずが、前川次官時代の官房長であり、科学技術・学術政策局長であった佐野太氏が受託収賄容疑で逮捕され起訴、さらに局長級の国際統括官であった川端和明氏も収賄容疑で逮捕され起訴、この一連の汚職事件で戸谷一夫次官も引責辞任という、通常ではありえない混迷ぶりである。

 まず、前川氏の経歴から見てみよう。1955(昭和30)年、奈良県御所(ごせ)市生まれ。実家は裕福な地主であり、祖父・前川喜作は大手冷凍機メーカーの前川製作所の創業者である。小学校3年時に上京し、私立麻布中学に入学、同高校を経て東京大学法学部を卒業し、1979(昭和54)年に文科省に入省した。ちなみに妹は、中曽根康弘元首相の長男であり、文部大臣を2期つとめた文教族の大物、中曽根弘文参議院議員に嫁いでいる。

 前川氏は、文春オンラインの「前文部科学事務次官・前川喜平 2万字インタビュー」に答えて、自らの生い立ちを次のように述べている。

 私の母親は教育ママというほどではないけれど、参考書だとかドリルを買ってきてくれました。田舎の小学校ですから誇れることでもないと思いますが、1年生の1学期の体育「4」を除けば、転校するまで成績は全て「5」だったんです。でも、これには裏がありましてね、私の実家というのは地主の家で、その地域では「ボス」だったんです。それでうちの祖母が「なんで4がついてんねん!」って学校に文句言ったらしいんですよ(笑)。それ以降、オール5の成績になった……。

 裕福な家庭に育ち毛並みも良く、何やら鳩山由紀夫氏と境遇が似ている。鳩山氏については、前項で「確かに学校でのペーパー試験だけはできたのだろうが、現実社会での応用問題が解けなかった」と記したが、前川氏の場合はどうであったのか。

応用問題を「解こうとしなかった」胸中は


 そこで彼の著作『面従腹背』(毎日新聞出版、2018年6月刊)を読んでみた。読後感は一言でいえば、現実社会での応用問題が「解けなかった」というよりは「解こうとしなかった」という印象だ。そして、記述が至る所でちぐはぐなのである。以下、違和感を持った記述を引用し、それに関する感想を⇒で記したい。

「内心においていかなる法も規律も認めず、国家に従属したり国家の部分として存在したりすることを拒否するという意味において、私はアナキストだったとも言える」(24~25ページ)
 ⇒アナキストとは、無政府主義者の意味だ。無政府主義者であると自ら規定していながら、何ゆえに国家公務員を長年にわたり勤めてきたのかが理解不能である。

「この頃(1980年頃)の文部省の幹部たちは、自分の金では飲んでいなかった。我々も一銭も払ったことはない。すべて役所の金(引用者注、裏金)で飲んでいた」(32~33ページ)
 ⇒唐突にこの一文が記載されている。自慢話を書きたかったのか、あるいは悔い改めた反省なのか、意味不明である。悔い改めているのならば、今からでも遅くない。返金すればよいだけの話だ。

「むしろ私は、今回の指導要領は書き込みすぎだと感じている。最小限の記述に限る『大綱的基準』に回帰し、もっと教育現場の自主性に委ねるべきではないかと思う」(91ページ)
 ⇒今回改訂された新しい学習指導要領は、2017(平成29)年3月に告示されている。彼はその年の1月に天下り問題で事務次官を引責辞任しているが、その1月には指導要領の全文はほとんど出来上がっており、事柄の性質上、事務次官であった前川氏は事前に何度も報告や相談を受けているはずだ。なぜ、その時に言わなかったのか、理解不能である。

「私が文部官僚としてやりたくなかった仕事の最大のものは、2006年の教育基本法改正である」(135ページ)
「安倍内閣の下、改正法案が審議されることになったとき、私は国会対策の大臣官房総務課長になっていた。総務課長として各方面に法案の説明をしなければならず、法案の早期成立に向けての根回しなどを行った」(154~155ページ)
 ⇒本当にやりたくないと思っていたら、人事異動願いを出すなり、立ち振る舞いはいかようにもあったはずだ。

 書き出していったらきりがないのでこの辺で止めておくが、すべからく「後出しじゃんけん」の印象をぬぐえない。
【6】に続く 文責=育鵬社編集部M

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