世界文化遺産から読み解く世界史【第73回:3宗教共存の町――トレド】

トレドの街並み

トレドの街並み

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教共存の時代

 古都トレドも同じことがいえます。トレドは711年にイスラム教勢力の侵入を受け、その後およそ370年間、イスラム教勢力によって治められていた時代が続きました。それが、1085年にレコンキスタによってキリスト教勢力によって治められることになったのです。  そうした歴史を背景に、トレドには、イスラム教徒、キリスト教徒の建築が共存しています。13世紀後半にはアルフォンソ10世が翻訳学校をつくり、アラビア語やヘブライ語の古典を全部ここで紹介するというようなことをしています。両文化が共存していたのです。  トレドには、16世紀になると画家のエル・グレコが現れます。ギリシア出身の画家なのですが、1577年にトレドにやってきました、グレコがキリスト教を題材に描いた作品には、イスラム教の精神主義の影響がその表現に表れています。偶像やリアリズムを重視するのではなく、精神主義的なところがあるのです。トレドという町に残されたイスラム教の影響がキリスト教文化に、グレコの絵画に残っているのです。    さらにおもしろいのは、ここにユダヤ教も長い間共存していたということです。ユダヤ教の教会であるシナゴーグもあります。ですから、トレドには、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つの宗教が共存している時代があったのです。つまり、この3つの宗教は本来的には似ているのであって、対立すべきものではないということです。3つの宗教が共存できる、そういう糸口をこの時代のトレドに見ることができるのです。これはとても重要なことで、そういう時代があったことを思い出さなくてはなりません。  それ以後、15世紀から16世紀に、スペインやポルトガルからユダヤ人が排斥され、国外に追放されます。そこから対立が生まれたのです。そのためユダヤ人たちはどっと北欧やオランダやイギリスに流れていきました。彼らはスファラディと呼ばれています。今日、ユダヤ人が世界の金融で大きな力を持っているのも、彼らが土地を持てないがゆえに、金融を扱わざるをえなかったという背景があるのです。いずれにしても、スペインの世界文化遺産を見ていくと、そうした歴史の経緯がよくわかります。 (出典=田中英道・著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 田中英道(たなか・ひでみち) 昭和17(1942)年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める。著書に『日本美術全史』(講談社)、『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『日本の文化 本当は何がすごいのか』『世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『世界文化遺産から読み解く世界史』『日本の宗教 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史――世界最古の国の新しい物語』『日本が世界で輝く時代』(いずれも育鵬社)などがある。
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