現代日本の川辺文化のイノベーション: 北浜テラス3

河川インフラがもたらした、街のイノベーション

 ただし、北浜エリアにこうした「テラス」ができてきたのは、そんなに古い話ではない。それは2009年のことだった。  大阪府は、この年に「水都大阪2009」という、歴史的に「水の都」と呼ばれてきた大阪の伝統をふまえたイベントを開催した。開催地は北浜を含む中之島公園を中心とするエリアだった。  このとき、北浜の3つの店舗で、イベント期間限定で「テラス」を仮設することになった。  そしてこの「仮設」的なテラスが、イベント終了後も「継続的」に設置されることとなり、それが今日に至っている。  しかし、このテラスを設置することは、「河川管理」の点からいうと容易なことではなかった。  そもそも、テラスが設置される空間は、「防潮堤」の内部の空間であり、法的には「河川区域」と呼ばれる大阪府が管理する空間だ。  つまり、店舗のテラス部は民有地ではない「政府」の持ち物であり、勝手に民間人が商用目的で占有してはいけない「公共空間」なのである。  日本において、北浜テラスのような空間がこれまでになかった最大の原因がここにある。「公共空間を、民間の商売に勝手に使うのはまかりならぬ」という発想だ。  これは、ヨーロッパのそこかしこで見られる街中の「オープンカフェ」が、日本では「公共空間である道路を、商売のために占有するなぞ言語道断」という発想のせいでほとんど見られない、という事情と全く同じだ。  融通の利かない過剰なコンプライアンス(法令順守)が、日本の文化レベル、文明レベルを押し下げている典型例だ。  しかし、そうした思いは川を大切に思う大阪の人々はもとより、長年河川の管理を行ってきた大阪府や中央政府の関係者の一部においても、確実に共有されていた。  つまり、諸外国では当たり前の河川空間の実現を阻はばみ続けているこの「法律の壁」を何とかして乗り越えない限り、日本は諸外国よりも一つ文明レベルが低いままの国になってしまう。  大袈裟に言えばそういう思いが一部の河川関係者の意識の中に潜在し続けていた。 そうした大阪の人々や行政関係者の思いが、「水都大阪2009」というイベントの時に、期間限定という形で結実したのである。 「河川区域の民間占有」に理解の浅い「頭の固い役人たち」であっても、大阪府が行う一大イベントの際には期間限定で「柔軟な運用」を行うことを許容することになったのであり、北浜での3店舗の「テラス」が河川区域内の空間に設置され、商用占有利用がなされることになったのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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