現代日本の川辺文化のイノベーション: 北浜テラス6
北浜テラスを実現させた、「水辺まちづくり運動」
こうした彼らの「川遊び」は、あくまでも「遊び」ではあるものの、どこかに「パブリック」(公共的)な要素を宿すものでもあった。 水辺「だけ」の情報を記載した大阪水辺マップを作ったり、「水辺ランチ」や「水辺ナイト」等の川辺でさまざまなイベントを開催するなどを通して、一般の方々に水の都大阪の「水辺」が持つ潜在的な魅力に気付いてもらおうとするのが主体的なものだった。 こうした彼らの活動は、今日ではしばしば、河川を活用したまちづくり運動である「水辺まちづくり」といわれるものだろう。 こうした彼らの「川遊び」を基調とした「水辺まちづくり」の活動は(それぞれ独自に進められてきたNPO「もうひとつの旅クラブ」や「omp川床研究会」の活動と重なり合い、有機的に連携していくことを通して)、2009年の水都大阪のイベント、「北浜テラス」を本格展開するプロジェクトへとつながっていく。 そもそも彼らのNPO活動を通して、ビルや店舗のオーナーや行政関係者との人的ネットワークが形成されていたのだが、このネットワークが北浜テラスの「行政からの許可」を受ける主体である「北浜水辺協議会」の形成において決定的に重要な役割を演じることになったのである。 そしてこの協議会は、イベント後の北浜テラスの継続的設置や、テラス店舗をさらに増やすための「営業」活動等をさまざまに展開し、テラス数は年々増加していった。 2019年現在、14テラスへと拡大し、今や北浜の「ブランドイメージ」が変わるまでに至ったのは、先に紹介した通りである。北浜テラスを実現させた「治水技術」と「伝統文化」
このように、北浜エリアにイノベーションをもたらした「テラス」は、より柔軟な河川空間の活用に関する法制度と、川辺空間をより文化的・文明的なものにしたいという地域の人々の熱意の両者によって結実したものであるが、その実現には、さらに次のような2つの異なった背景要因があったことも指摘しておきたい。 第一に、この土佐堀川を含む大阪市の河川システム全体の「治水事業」とそれを支える「土木技術」である。 そもそも、この土佐堀川の「水位」が豪雨や高潮の時に簡単に上昇し、堤防の高さを超えることが毎年起こるようでは、水辺空間のレストランやカフェなどの日常的営業は事実上不可能となってしまう。 特に北浜の少し下流側には、計画水位よりも「低い」位置に作られた「デッキ」(つまり、河川敷でなく、河川そのものの上部に作られた公共施設)にレストラン、カフェが作られているケースもある(中之島にぎわいの森プロジェクト)。 これらのカフェ、レストランの運営が可能なのは、河川の水位が、どれだけ高潮や豪雨があろうとも、常に一定以下となるようにコントロールされているからだ。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
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