「大阪府40代男性職員風疹検査」で広がる「予防接種は社会のマナー」という考え方

(文/桑満おさむ・五本木クリニック院長・ニセ医学バスター)

大阪府で40代男性職員を対象に風疹を検査

 NHKは 9月24日、全国的な流行が続いている風疹の感染拡大を防ぐために、大阪府が40代の男性職員約1000人を対象に、来月、風疹の抗体を調べる検査を行う方針を固めたと報道しました。 「大阪府内でも今月15日までに126人が感染していて、すでに去年1年間の患者数を超えています。流行の中心となっているのは、子どものころにワクチンの定期接種の機会がなかった40歳から57歳の男性であることから、厚生労働省は、今年度は40歳から47歳の男性を対象に原則、無料で免疫の検査やワクチン接種が受けられるクーポンを配布しています。しかし、大阪府内で検査を受けた人は7月末までにおよそ5%と、目標とする割合の10分の1の水準にとどまっています。こうした状況を受け、大阪府は、クーポン券の対象となっている40歳から47歳の男性職員およそ1000人を対象に、来月、風疹の抗体を調べる検査を行う方針を固めました。」

「大阪府40代男性職員風疹検査へ」のニュースを伝える「NHK生活・防災ツイッター」(@nhk_seikatsu)

 厚生労働省によると、自治体が職員を対象に風疹の検査を行うのは、全国的にも珍しいということですが、筆者としては、このような取り組みを評価します。  風疹は感染力が強く、妊娠中の女性が感染すると、産まれてくる赤ちゃんに障害が出るおそれがあります。国立感染症研究所によれば、今年、全国で風疹にかかった男性は1700人以上で、この内、感染の経路などを申告した人の中では、職場での感染が最も多く、次に家庭内が多かったということです。

なぜワクチンを接種しないの?

 ワクチンにはさまざまなものがありますが、それぞれ大きな副反応(や副反応と勘違いされた症状)が起こるたびに、安全性に疑問が投げかけられてきました。しかし、ワクチンも薬と同様にベネフィットとリスクを秤にかけて考えなければいけません。  たとえばDPT(ジフテリア+百日咳+破傷風)ワクチンは、1968年に定期接種(予防接種法に基づき、行政が主体となって実施するもの)が始まり、それぞれの患者は激減しました。  しかし、1975年にワクチン接種後、脳症が起こり2人が亡くなったことで、DPTワクチンは中止されました。3カ月後に再開されましたが、接種率は非常に低下したのです。その結果として、数十人(百日咳かどうかの判断が難しいため、資料により死亡者数は異なります)が亡くなりました。  1989年に定期接種が始まったMMR(麻疹《はしか》+おたふく風邪+風疹)ワクチンも、おたふく風邪ワクチンによる髄膜炎が多発することがわかり、1993年に中止。その後、麻疹と風疹は定期接種として残っていますが、おたふく風邪は任意接種となったため、おたふく風邪の接種率はとても低くなっています。ちなみに、おたふく風邪ワクチンは、先進国のほとんどで定期接種となっています。  ベネフィットとリスクは、単純に人数などで比較することはできません。多くの人が助かるのだから数名は仕方ない、などとは決して言えません。だからこそ冷静に考えることが大切なのです。

「接種しないリスクが大きすぎる」ワクチン接種の意味

 副反応も冷静にとらえなければいけません。なぜなら、ワクチン接種後に起こったからといって、必ずしも副反応だとは言えないからです。  たとえば、ワクチン接種後に発熱や下痢といった症状を訴える人がいます。しかし、ボランティアを募集し、本物のワクチンとプラセボ(偽薬)で比較をして安全性の試験を行うと、本物でもプラセボでも受けた子どもに同じ割合でそのような症状が起こることがわかっています。つまり、接種後、たまたまそのような症状を起こしたということです。  体に起こった症状がワクチンのせいで起こっているかどうかというのは、比較的わかりやすいのですが、「ワクチンのせいではない」ということを証明するのは簡単ではありません。そのため、ワクチンと症状の因果関係は認められないという結果が出ても、実際に副反応で苦しめられた人は、納得できないかもしれません。  接種を受けた後にさまざまな重篤な症状が報告され、問題となったHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)でも、さまざまな副反応にはワクチンとの因果関係が認められないという結果が出ていますが、実際に原因のわからない重篤な症状に苦しんでいる人がいる以上、医療は当然その原因を追究し続け、治療法を模索し続けるべきです。  しかし、接種を受けるかどうか考えているという人は、「ワクチンと副反応に因果関係は認められていない」ということを冷静に受け止め、実際にその病気になった場合のリスクと比較をすることが大切です。  ワクチンをゼロリスクにすることはできませんが、日々改良が進み、リスクはより低くなっています。たとえば、ワクチンの大きな副反応にアナフィラキシーショックがありますが、ワクチン成分からゼラチンが除外されたことにより、軽症化されています。  また、生ワクチンの場合、病原体を薄めたものを摂取するため、免疫力がとても弱い子どもなどが受けると、ワクチンによってその病気にかかってしまうということがあります。その代表がポリオでしたが、ポリオも現在、生ワクチンではなく不活化ワクチンが使用されています。  このようにワクチンはベネフィットを高めるとともに、リスクはより小さくなるよう、日々世界中で研究が進んでいます。  私も医師として、少なくとも定期接種で積極的な接種が推奨されているものは接種するべきだと思います。リスクに対してベネフィットが大きいというよりも、接種しないリスクが大きすぎるからです。  医師が積極的に接種をすすめるのは、実際に、予防接種で防げる病気で苦しんだり亡くなったりする人を間近で見てきているからです。  だからこそ、でたらめな情報で「ワクチンを打つべきではない」と主張するトンデモな医療関係者や、それをドヤ顔でSNSなどで広める「意識高い系」の人々に憤りを覚えます。

予防接種は社会のマナー

 予防接種というのは、接種を受けた人が感染から守られるという「個人防衛」効果のほか、多くの人が受けることで感染症が減り、結果、予防接種を受けていない人も守られるという「社会防衛」効果もあります。  個人防衛だけでよいのであれば、予防接種を受けない自由もそれによって起こる被害も受け入れればよいと思います。  しかし、月齢が低い赤ちゃんや妊婦は、打てないワクチンがありますし、世の中には抗体がつきにくい体質の人もいます。また、年齢が高くなるほど抗体ができにくくなるため、成人になってから予防接種を受ける人は、リスクが高くなります。  抗体がついたとしても、その病気が蔓延しウイルスが大量に侵入してくれば、防ぎきれない場合もあります。  そのような状況を防ぎ、また、望んでも抗体がつかない、予防接種ができないという人を守るためにも、必要な予防接種は社会全体で受ける必要があるのです。 桑満おさむ(くわみつおさむ) 五本木クリニック院長。ニセ医学バスター。1986年横浜市立大学医学部卒業後、同大医学部病院泌尿器科勤務を経て、1997年に東京都目黒区に開院。“日本一の町医者”を目指し、地域密着型のクリニックを展開。またネットなどにはびこるニセ医学に危機感を抱き、エビデンスを用いて軽快かつ辛辣に論破していくブログで話題。NHK『チコちゃんに叱られる! 』(2018年6月29日放送)にも登場するなど、活躍の場を広げている。最新刊は『“意識高い系”がハマる「ニセ医学」が危ない!』(育鵬社)。
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