徴用工判決から1年、迷走する韓国を応援する日本の弁護士たちの病

<文/ケント・ギルバート>

徴用工判決から1年

 いわゆる「徴用工」、旧朝鮮半島出身労働者の問題について、2018年10月30日に韓国大法院が、新日鐵住金(旧・日本製鐵、現・日本製鉄)に対し、韓国人4人へ請求全額の計4億ウォン(約4000万円)の損害賠償を命じてから、ちょうど1年が経ちましたが、いまだに韓国の国際法違反の状態が続いています。    元徴用工への補償を含む日韓両国間の請求権問題は、1965年の日韓基本条約に付随する日韓請求権並びに経済協力協定に基づいて、韓国に対して合計5億米ドル(無償3億米ドル、有償2億米ドル)および民間融資3億米ドルの経済協力支援を行うことで、完全かつ最終的に解決しました。韓国の公文書にも、「無償の3億米ドルには個人への補償分も含まれている」と記されています。  しかも条約締結にあたっては、そもそも日本政府が韓国人の個人補償を行うことを提案したにもかかわらず、韓国政府が「個人への補償は韓国政府が行う」と言って、日本から莫大なお金を受け取っています。  しかし、当時の朴正煕(パクチョンヒ)大統領は、日本に対して債権を有する個々人に対してほとんど支給せず、自国の経済基盤整備のために使いました。だから本来は、その個人請求権の訴える相手は韓国政府です。  そこで、新日鐵住金はこの協定ですべて解決済みとの主張をしましたが、韓国大法院は、国同士の請求権はないが、個人の請求権は残っているという認識を示し、認められず、敗訴してしまいました。繰り返しますが、個人請求権の請求先は韓国政府です。

韓国を支援し日本を批判する日本の弁護士たち

 私が不思議なのは、これほど明らかな不当判決に対して、どうして法律のプロであるはずの日本の弁護士たちが、韓国大法院の判決を支持するような声明を出すのかということです。  例えば、2018年11月5日、日本の弁護士有志が、新日鐵住金への韓国大法院の判決に融和的な声明を出しました。その内容は、「元徴用工問題の本質は人権問題である」「日韓請求権協定により個人請求権は消滅していない」「被害者個人の救済を重視する国際人権法の進展に沿った判決である」「日韓両国が相互に非難しあうのではなく、本判決を機に根本的な解決を行うべきである」というもので、数人の弁護士が賛同しています。  2019年4月20日には東京・弁護士会館において、国際人権学術シンポジウム「戦争および植民地支配下の人権侵害の回復と平和構築に向けて〜国際人道法・国際人権法と植民地責任の視点から考える〜」が開催され、韓国の元徴用工に対する日本政府の対応に関して、日韓請求権協定に詳しい有識者や元徴用工訴訟に関わる韓国弁護士がパネリストとして参加しました。  このシンポジウムは日弁連が主催し、大韓弁護士協会が共催です。韓国MBCの報道によれば、冒頭に主催者挨拶として、日弁連副会長の白承豪(はくしょうごう)弁護士が登壇し、「徴用工問題の本質は、戦争と植民地支配下の人権問題」とし「被害者の人権回復と平和構築について冷静に考えてくれることを願ってシンポジウムを開催した」と開催趣旨を述べたとのことです。  その後、元日弁連会長の宇都宮健児氏も、ソウルの弁護士会館で2019年9月5日に開催された「日帝強制動員問題の争点と正しい解決策の模索に向けた韓日共同シンポジウム」(主催・ソウル地方弁護士会)で特別演説をし、徴用工問題について言及したそうです。  ハンギョレ新聞の日本語版ウェブサイト(2019年9月6日配信)によれば、宇都宮氏は、「韓国に対する日本政府の輸出規制が強制動員問題をめぐる報復措置であることは明らかだ」とし、「報復的な輸出規制を直ちに撤回し、韓国政府と協力して強制動員被害者の被害の救済を図るべきだ」、また、「新日鉄住金(現日本製鉄)や三菱重工業など日本企業が韓国最高裁の判決を受け入れるとともに、謝罪と賠償を含め、被害者が受け入れられるような行動を自発的に取るべきだ」と述べたそうです。  また、日韓請求権協定についても、「当事者である被害者を疎外し、両国政府の〝政治的妥協〞で成立した協定という限界がある」としたうえで、「個人の損害賠償請求権を国家間の協定で消滅させることはできず、日本政府や日本の最高裁判所も韓日請求権協定によって個人の損害賠償請求権は消滅していないと解釈してきた」と指摘したとのことです。

日本の弁護士たちのズレた認識

 日本経済新聞社は10月27日の世論調査で、日本政府が韓国との関係について、どのような姿勢で臨むべきかを聞いたところ、「日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない」が69%に上ったと報じています。「関係改善のためには日本が譲歩することもやむを得ない」は19%に留まり、「関係改善を急ぐ必要はない」と答えた人は内閣支持層で75%、不支持層でも64%だったとのことです。このように、一部の日本の弁護士たちの見解は、世論ともかけ離れています。  この徴用工問題については、弁護士の北村晴男さんとの対談本『日弁連という病』(育鵬社)の中でも論じていますが、国際法よりもいわゆる「国民情緒法」と称すべきものが上位法規である韓国では、大統領や裁判官、検察官まで、デモや暴動を恐れ、自分の役割を忘れて迷走中です。  日本政府はその後、日韓請求権協定に基づいて1月に協議を要請しましたが、韓国側はそれを受け入れなかった。そのため、2019年5月20日、日韓請求権協定3条2に基づく第三国を交えた仲裁委員会の設置を韓国政府に通告しました。しかし、韓国側は仲裁委員の選定もせず、また第三国の選定も行わないので、この請求権協定に基づく仲裁を行うことができません。  この判決は、戦後の日韓関係の法的基盤を根底から覆した、国際法に照らしてもあり得ない判断です。日韓間の歴史的経緯および法的な解決としては、韓国政府が補償金を払うべきということになります。韓国政府は国際法違反の状態をこれ以上野放しにしないように、直ちに是正の措置を取るべきなのです。 ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士。1952年米国アイダホ州生まれ、ユタ州育ち。71年初来日。80年米ブリガムヤング大学大学院卒業。法学博士・経営学修士。米カリフォルニア州の司法試験に合格し国際法律事務所に就職。法律コンサルタントとして東京都に居住。83年テレビ番組『世界まるごとHOWマッチ』に出演、一躍人気タレントとなる。現在は講演や執筆活動を中心に多忙な日々を送る。著書に『米国人弁護士だから見抜けた日弁連の正体』(育鵬社)他多数。最新刊は『日弁連という病』(北村晴男氏との共著、育鵬社)。
日弁連という病

日米弁護士コンビ怒りの告発!! 多くの弁護士は怒っている! 「日弁連は政治活動の道具ではない!!」

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