「下水資源」イノベーション: 都市に眠る宝の山4

下水道から電力を作る─ ( 1 ) ガス火力発電

 このように、下水処理の過程で発生するガスが有効利用されていったのだが、その流れの中で「発電」にも活用されていくようになっていった。上記のガスを燃やして、火力発電を行うわけだ。  現在、こうして生み出された電力は、下水処理場内部で活用されたり、あるいは、地域の電力会社に販売されたりしている。  しかもこの下水ガス火力発電は、政府が導入した「FIT」制度によって近年急速に拡大しており、今、小さな下水ガス火力発電ブームが生じている。 (例えば2015年5月に放送されたNHKの「クローズアップ現代」では、「全国に広がる 下水発電ブーム」という見出しで、その普及状況が紹介された)  FIT制度というのは、太陽光や風力、水力などの、海外からの資源輸入に頼らない「再生可能エネルギー」を普及させるために導入された制度だ。  電力会社がさまざまな主体から電気を買い取る際に、(石炭火力発電などの非再生可能エネルギーよりも)少々「割高」に購入する仕組みだ。  下水資源を活用する発電はもちろん、再生可能エネルギー発電であり、FIT制度の対象となる。  しかも再生可能エネルギーの多くは、風力や太陽光等がその典型であるように、天候などに左右されるため、電力の「安定供給」ができない。  一方で下水ガス火力発電は、天候に左右されないため、安定供給が可能である点も、その大きなメリットとなっている。

発電事業における「安定供給」性

 そもそも発電事業において、この「安定供給」性は極めて重大な意味を持つ。  その点において住民への電力安定供給の点から言って、下水ガス火力発電は、太陽光や風力よりも「優良」な発電事業と位置付けられるのである。  こうした背景もあり、全国のさまざまな下水処理場で下水ガス火力発電所が作られていった例えば、2013年から2015年までの3年間で全国で新しく作られた下水ガス火力発電所は30カ所。  これらも含め、現時点でトータル80カ所以上にまで、全国の下水ガス火力発電所が拡大している。結果として今、全国で発生するバイオガスの20%程度がこうした火力発電に活用されている。  以上のようなさまざまな活用方法を経て、現在、バイオガスの約75%が有効利用されるに至っている。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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