ドキュメンタリーの鬼才・原一男が今、水俣病を撮る理由「ジレンマを10年間抱えながらカメラを回した」

 『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』などのセンセーショナルなドキュメンタリー作品で知られる映画監督・原一男。水俣の人々の日常や裁判の様子を10年以上追い続け、今もなお撮影中の作品『MINAMATA NOW!』が今月28日、シューレ大学国際映画祭で上映予定される。また’60年代から’80年代にかけて日本社会の劇的な変化を映し出すドキュメンタリーを制作し、日本のみならず世界中からも高く評価され続ける小川プロダクションの全20作品がDVD化された。同作の宣伝部長を務める原監督に、小川プロ作品への思いや、自身の作風について迫った――

――まず8月28日に上映される『MINAMATA NOW!』についてお聞きしたいのですが。

原一男監督

 水俣の撮影は、国と熊本県の責任を認めた関西訴訟最高裁判決の日、’04年10月15日にクランクインしました。それから10年以上経ちましたが、まだ撮影は終わってません。今年4月、関係者から「水俣病公式確認60年だからこそ、見せたいんだ」と言われ、45分バージョンを作りました。

 特別編集版は1回しか上映しないと決めていたんですが、そのとき会場に入りきれず帰ってもらった人たちがあまりにも多かったんで、では今回もう一度やりましょうと。

――10年以上撮影していく中で注目度もかなり高まっていたということでしょうか。

 そうでもないですよ(笑)。ただ、アスベストの問題(『ニッポン国泉南アスベスト村(仮)』/’16年)に比べると水俣病の問題の方が興味関心を持っている人の層が厚いんですね。だからそういう人たちが見にきてくれたんだと思いますよ。

――水俣病の問題を撮ることになったきっかけは?

 そもそも水俣の運動を支えている方々がいまして、彼らに「制作費を出すからやってみない?」と言われて。ドキュメンタリー映画って自分たちで全部作るとなるとやっぱりすごく苦労するんですよ。でも制作費を出してもらえるということはお金に関しての苦労はしなくていいということだから。それってすごい開放感なんですよ。僕らにとっては最高の口説き文句。でも、実際撮り始めてみるとすごく難しかった。今まではいわゆる“スーパーヒーロー”を主人公に撮ってきたので、今回のような“普通の人”を描く作品は私がこれまで描いていた作品の価値観とは違うわけで。

 自分の持っている価値観をどう修正すれば面白い作品ができるかと自問自答しながら撮影をしていくのはそう簡単なことじゃないんですよ。いまだに自分の中で答えを見つけられないまま、作業をやってるなと思いますね。

――以前のインタビューで、アスベストと水俣病の問題は構図が似ているというお話がありましたが。

 昭和から平成にかけて、世の中がだんだん悪くなっている感じがあるでしょう。人間っていうのは誰もが、その人の生きた時代の状況と無縁には生きられないでしょ。ドキュメンタリーは、その時代の状況の中で生きてる人にカメラを向けるわけですから、必然的にそれが持っている意味というものが映り込んじゃう。

 だから、アスベストと水俣の2つの問題については、現在撮影している平成という時代の影響が共通して映り込んでるという意味では似ているかもしれません。それに、やっぱり世の中が悪くなっている分、人間の生き方がしんどくなってるような気もしますね。作家として、そういう“映ってしまうもの”を客観的にどう捉えていくかが大事で、その結果が作品になるんです。

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ゆきゆきて、神軍

今村昌平企画、原一男監督による異色ドキュメンタリー。天皇に向けパチンコ玉を撃った過去を持ち、過激に戦争責任を追及し続けるアナーキスト・奥崎謙三。そんな彼が、ニューギニア戦線で起きた疑惑の真相を探るべく、当時の上官を訪ね歩く姿を追う。

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