韓国軍の非常事態警報「珍島犬1号」 名称の由来は?
アメリカ本土への核攻撃をチラつかせるなど、挑発的メッセージを日に日にエスカレートさせている北朝鮮に対し、3日、米国防総省は、近く戦域高度防衛ミサイル(THAAD)をグアムに配備することを発表。B52戦略爆撃機やF22ステルス戦闘機、さらには核兵器も搭載可能なB2ステルス爆撃機など、最新鋭の先端兵器を朝鮮半島に“結集”させ、これまで立ち遅れていた東アジア地域におけるミサイル防衛網の構築を急いでいる。
そんな一触即発の朝鮮半島情勢が報じられるなか、「平時」を意味するレベル5から「非常時」のレベル1まで、米国防総省による戦争の準備態勢を示す「デフコン」(Defense Readiness Condition)や、偵察・監視体制のレベルを表す「ウオッチコン」(Watch Condition)など、聞きなれない軍事用語を耳にする機会が多くなってきた。
北朝鮮も「1号戦闘勤務体制」という物々しい言葉を使って米韓の動きを牽制しているが、この緊張状態の続くなか大いなる“脱力感”を放っているのが、韓国軍の「珍島犬(チンドッケ)1号」なる非常事態警報だ。2010年11月に起きた延坪島砲撃事件の際もこの警報が発令されており、警戒のレベルは「平時」を示す3から「最高非常警戒態勢」となる1まで3段階。デフコンとは違い、「北朝鮮の武装スパイが韓国内に侵攻してくると予想できる際に発令される警報」というのが前提のようだ。先月27日、韓国北部・江原道華川郡の南北軍事境界線近くで、韓国軍兵士がシカとおぼしき動物を北の侵入者と勘違いし手りゅう弾で攻撃したときにも、韓国軍はこの非常事態警報を発動。あわや戦闘状態に突入する事態となったが、この緊迫した状況をあざ笑うかのような「珍島犬1号」なる牧歌的響き……報道を見て苦笑いした人も少なくないだろう。名称の由来は朝鮮半島西南端にある珍島に棲息していた固有種の犬で、韓国では1962年以来天然記念物(第53号)に指定されている犬種なのだとか。それにしてもこの珍島犬、なぜこのような少々物騒とも言える軍事用語となったのか。ケネル協会所属のドッグブリーダーが説明する。
「珍島犬は、お隣韓国では有名な犬種で、2002年に日韓で共催されたサッカーW杯のマスコット・キャラクターにさせようというムーブメントが起きたほどの犬です。日本の忠犬ハチ公ではないですが、飼い主への忠誠心が厚く、自分より大きな体躯の犬に対してもひるまず向かっていく勇敢な性格なので、そういう番犬的な軍事用語で使われているんじゃないでしょうか」
実際の珍島犬の写真を見る限り、日本の秋田犬や柴犬を想起させるどこにでもいそうな風貌であるため、天然記念物の扱いになっていることに違和感を覚えるが、それはどうも「素人考え」のようだ。件のドッグブリーダーが続ける。
「珍島犬は、モンゴル帝国の時代に軍用犬として扱われていた歴史もあるのですが、日本の犬とルーツが近いともと言われています。ただ、秋田犬や中国のチャウチャウなどと交雑が進んでいるのではないかと、そもそもの血統が問題視され続けている犬種でもある。戦後になって、珍島犬保護を目的とした韓国の国内法ができたのですが、これもオリジナルは私たちの国だ! と抗日色が強かった時代の流れでできた法律のようです。ただ、意外に知られていませんが、日本固有の犬もそのほとんどが今や天然記念物(笑)。柴犬は1936年に、紀州犬は1934年に、秋田犬は1931年に当時の文部省から指定されています。え? 柴犬なんて至る所にいるだろう! という人もいると思いますが、出所の不確かな血統書が多く出回っており、ある意味“もどき”の犬ばかりでインフレ状態。真の柴犬ならば耳のかたちひとつ取っても、内耳線は真っ直ぐに延び、外耳線はやや丸みをおびた不等辺の三角形。傾きの加減も、やや前方に傾いた状態でピンと立っているものなんです」
いずれにせよ、北朝鮮が今後いかなる暴挙に出ようとも、「珍島犬」には最後のバルトラインは死守してもらいたいものである。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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