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「会社が潰れる」とはどういうことなのか?

倒産 ニュースを見ていると、日常的に目にする「法的整理に入った」や「経営破綻の危機」といった文言。一様に「会社が潰れる」といっても、「潰れる」にはいろいろな種類がある。どのような違いがあるのか。クビ切り指南役として多くの企業でリストラの企画立案から実施までを担ってきた経営コンサルタントの中沢光昭氏に代表的なパターンを解説してもらった。 (1)倒産 「これは法律上の定義はなく、俗称です。だいたいにおいて、以下の(2)から(5)を総称しています。したがって、メディアに『倒産』という字が躍っていても、どれくらいの影響が周囲にあるのか、会社の存亡に関わる問題なのかは、よく読んでみないとわかりません。どのケースにも共通するのは、その後、たとえ業績面で復活できたとしても、信用が回復するまでの間、しばらくは、新たに取引をしてくれる銀行はなくなることです」 (2)破産 「弁護士を通じて裁判所に破産の申し立てをし、裁判所が破産手続き開始決定をすることで成立します。その瞬間から事業活動は停止され、裁判所が認定した破産管財人のもとで順次資産を現金化し、清算に向かいます。ジーンズのボブソンや寿司の茶月など知名度の高いブランドを有していた企業も、最近では破産に至りました」 (3)会社更生 「メディアで『法的整理』と書かれることもあります。裁判所に認定されれば、銀行からの借入金について、債権放棄をしてもらいます。取引先への一般商取引債権(買掛金など)や、顧客から預かっているものがあれば、その支払い義務もカットされるので、取引先の罪のない企業を巻き込みます。もちろん易々とはできず、更生計画を裁判所に提出して厳格に審議され、認定されることで成立します。経営陣は会社に残ることはできず、裁判所に選定された管財人(第三者の弁護士など)が更生計画の実行に当たります。実際のところいきなり弁護士が入って企業経営をすることは難しいので、資産の売却や債務の弁済(弁護士の得意分野でもあります)など、誰がやっても必ずやるべきことをしつつ、新しく経営を担うスポンサーを探すことが多いようです。また会社更生法の適用が認定されたら、カネを貸していた銀行は、仮に不動産を担保にとっていたとしても、管財人の許可を得ないまま勝手に担保権を行使して処分してカネを回収するということができなくなります。有名企業の例では、2012年のエルピーダメモリのほか、2011年の林原グループ、2010年のJAL、武富士、ウィルコムなどがあります」 (4)民事再生 「(3)と同様にメディアで『法的整理』と書かれることもあります。ただし会社更生法と異なり、経営陣は会社に残ることができます。また不動産に担保を取ってカネを貸していた銀行(おおよそメイン銀行)は、一部の条件下を除けば、担保権を行使して不動産を売却してカネを回収できます。なので、メイン銀行と相談もせずに勝手に企業が民事再生法を申請するような事態はなかなかありません。裁判所に申し立てをした途端に、担保に取られていた工場を売却されたりしたらビジネスが続けらないからです。半面、銀行も、申し立て後にスポンサーがつく予定になっていたり、実現信用性の高い再建計画が事前に用意されていたりしない限り、許可を出しません。裁判所に認定された後は管財人主導のもと、スポンサーを見つけて再建の道に進むことが多いです。元々は中小企業がスムーズにリスタートするために作られたものでしたが、大企業でも適用を申請するところもあります。2012年の太平洋クラブ、2010年の日本振興銀行、2009年の泉精器、栄泉不動産やミカドなどがありますが、古くは2001年の青木建設や2000年のそごうなどもあります。なお、法的整理の認定を受けているとさまざまな税務上のメリットが得られます」 (5)解散 「経営が立ちいかなくなった企業が、ずるずると延命措置で会社を潰さない、そしてなかなか復活できないことよりも、お金があるうちに解散するほうがいろんな意味でベターだと判断するケースがあります。山一證券で行われたように、会社の事業は現状のまま維持できる状態であるのにもかかわらず、事業を停止して、資産を法的手続きにのっとって従業員、金融機関、仕入先、株主と分配していきます。将来的な事業の継続性が見えない場合に、取引先や顧客への影響を最小化するためです。言わずもがなですが、信用は一度失われると取り返すのは難しく、なおかつ時間がかかります。なので、先が見えなければ早めに会社をリセットしたほうが、迷惑をかける相手は少なくて済み、経営者やオーナーは個人としての信用を残してリスタートできるともいえます。ただ、現状では稀なケースです。最終的に経営者が決断しなければならないため、今後生き残れる可能性がゼロではないのに区切りをつけて自ら会社を畳むということは、それまでせっかく築いてきた事業基盤(たとえなかなか利益を生み出せないとしても)や、社員のことを思うとなかなかできないものです」 (6)私的整理 「法的整理と異なり、裁判所に申し立てるという手続きはありません。全国銀行協会、日本経団連によって策定された『私的整理に関するガイドライン』という骨子がありますが、法律上の行為ではないため、強制力はありません。主にメイン銀行の協力のもとで、金融支援(大なり小なり債権放棄してもらったり、利子の支払いや返済を一定期間待ってもらったりする)について同意してもらうよう、銀行間調整を進めていきます。もちろん、スポンサーがついたり、実現信用性の高い再建計画が出てきたりしない限り、なかなか金融機関には同意してもらえません。ただし、一般商取引債権(買掛金など)などはそのまま取引条件を保持できるために、ビジネスを進めるうえでの信用が継続されやすく、復活しやすいスキームです。メイン銀行の協力なしにはできないので、必然的に「メイン銀行から莫大な借金をしていて、なおかつある程度認められている、そこそこの規模の企業」でしかできません。10年ほど前になってしまいますが、当時有名になった例では西武百貨店、三井建設(現在の三井住友建設)、フジタやダイエーなどがあります」 (7)事業再生ADR 「ADR(Alternative Dispute Resolution)とは裁判外紛争解決手続きのことを指し、(6)の私的整理の一種です。破綻に陥りそうな企業があった場合に、メイン銀行としてはやはりどうしても債権放棄は避けたいインセンティブが働きますので、なかなかリセットには向かえない実情があります。そこで国の認定を受けた第三者機関が仲介役となって、銀行など債権者を調整し、リセットの手続きを進めることができます。法的整理と同様の税務上のメリットも受けられます。代表的な例としては、2009年のコスモスイニシア、さいか屋、アイフルなどがあります。いったんADRで進めた後、法的整理の手続きに入った日本航空やウィルコムの例などもあります」  会社の知名度や大きさなどのインパクトが先行しがちだが、詳しい用語をきちんと抑えることでニュースの本質を知ることができる。 <取材・文/日刊SPA!取材班> 【中沢光昭氏】 経営コンサルタント。投資会社、経営コンサルティング会社などにおいて企業再生、成長を見据えた企業変革に約20年従事したあと、独立。現在も企業再生をメインに活動を行う。これまでに30社以上、計2000人以上のリストラに直接関わってきた。著書『好景気だからあなたはクビになる!』が好評発売中
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