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被災者が一番恐れているのは忘却 震災マンガに描かれた復興への希望「菜の花畑」

 3・11東日本大震災から半年が経った。震災から数週間、現実とは思えない、信じたくない映像がニュースで流れ続けたが、現地ではニュース以上の多くの悲しみが生まれていただろう。被災地以外の多くの人々も「何もできない」という無力感に苦しんだ。東京に住む漫画家・みすこそさんもその一人だ。 「テレビを見ていると、雪が降っているなか地震や津波の被災者が、行方不明の家族を探している映像が流れていました。ネットでは福島原発で決死の作業をする作業員の話が流れていました。震災後は被災地の話を目にするたび、こらえきれずただただ大泣きするばかりでした。震災関連のニュースも日が経つにつれて減っていき、いつか被災地以外の人はこの震災のことを忘れていってしまうんじゃないかって思うと、おそろしくなってきて……」  そんな大泣きの日々が何日か続いた後、みすこそさんは「自分にできることをやろう」と動き出した。ニュースを見て感じたことや思ったことをもとに、あの瞬間に起きた人間ドラマをマンガに描き、自身のブログにアップし始めたのだ。被災者一人ひとりに思いをはせて描かれたその作品は、ツイッターなどを通して多くの人の目にとまった。そして、ブログにアップされた作品に加え、描き下ろし作品も収録した単行本『いつか、菜の花畑で~東日本大震災をわすれない~』が発売されることとなった。  その中から一作品『菜の花畑』のコミックスライドショーを紹介する。
コミックスライドショー⇒http://youtu.be/gYSmnPW6UDg】  みすこそさんは出版の話がきた後、どうしても実際に被災地を訪ねてみたいと思うようになり、津波の被害が大きかった岩手県・大槌町でのボランティア活動にも参加した。  そして、そこで出会った現地添乗員Aさんに、復興に対する強い気持ち、希望を感じたという。Aさんとの出会いから生まれた作品が上で紹介した『菜の花』だ。  Aさんは、津波から間一髪で逃げてきた被災者の一人でもある。奇跡的に生き延びた後、ヘドロと瓦礫の山しかない町を見て、「この町は死んだ」と、しばらくふさぎこむ日が続いたそうだ。それでも、「人に笑顔になってもらえるような思い出づくりの手伝いをしたい」という想いから、観光業を志したことを思い出し、被災地復興ボランティアの添乗員を務めた。  みすこそさんが参加したボランティアツアーでも、神妙な顔つきでうつむきがちだった参加者に対して、終始笑顔で話しかけたり、参加者の作業風景写真を撮ると申し出たりと、楽しい現場づくりをしていた。「なんでそんなに笑顔でいられるのか?」みすこそさんは、Aさんに尋ねた。 「せっかく来たんだから、楽しくやりたいじゃないですか。自分の記録だって残したいでしょ。黙々と笑顔も自制しながら作業しているだけでは、復興している気分になれないですよね。自分の町に帰ったら、ご自分の作業写真でも見せながら、このツアーで感じたことをほかの人に広めてほしいんです」  続けて、いま被災者が望んでいることは何か、切実な思いを語ってくれた。 「私たちが一番恐れているのは忘却です。最初はみんなこの惨状に同情してくれますが、結局は自分自身のことじゃないから、忘れていくんですよね。みんなが笑顔に暮らせるようになるためにも、東北の外からの援助はこれからも必要です」  Aさんは、大槌町の人々と共に、河川敷に菜の花を植えるプロジェクトを進めている。ヘドロと瓦礫であふれた河川敷に、きれいな黄色のじゅうたんをつくりあげ、少しでも多くの人の笑顔を取り戻すために。  Aさんの想いをうけとめたみすこそさんは、震災マンガの出版を改めて決意。『菜の花畑』を含む9作品を描きあげた。多くの人に震災のことを忘れないで欲しい。Aさんとみすこそさんは同じ願いを持ち、被災地の未来へ前を向いて歩み続けている。 構成/林健太 菜の花畑◆書籍紹介 『いつか、菜の花畑で
~東日本大震災をわすれない~
』 みすこそ 著
1000円(税込) 出版されるや、佐々木俊尚さんや江川紹子さん、
坂本龍一さんまでがツイッターで紹介! ◆ツイッターに寄せられたコメント 「A true story in Tohoku」 坂本龍一 氏@ryuichisakamoto 「このマンガは素晴らしすぎる。・・でも人の目のあるところでは読まない方がいいかも。落涙必至」 佐々木俊尚氏 @sasakitoshinao 「震災で失われた命と、懸命に生き抜いている人々と、被災地とそこの人たちにひたすら心を寄せていた自分を忘れないために。震災から半年。素朴な線の1つ1つに、命と思いがこもっています。お勧め」 江川紹子氏 @amneris84
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