更新日:2014年06月18日 13:26
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心に残る思い出の「音楽マンガ」たち

音楽 最近、「食マンガ」が人気を博しているが、「音楽マンガ」もマンガの定番ジャンルのひとつ。最近では渋谷直角氏の『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社)が大きな話題となった。  その渋谷氏の新作『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』は、週刊SPA!3月11日号~4月8・15日合併号にて第1部が連載され、描き下ろしを加えた単行本は今夏発売予定となっている。奥田民生がアラフォーの等身大のロールモデル足り得るのでは? という思いから、彼の曲に沿ってアラフォー男の狂騒が描かれる。  毎回、話の展開に沿ってテーマとなる曲やアルバムが時系列で登場し、奥田民生の進んできた道程と対比するかのように、まだ何も進んでいない主人公の姿が浮き彫りになっていくわけだが……一人のミュージシャン、音楽が人の人生に寄り添い、それがマンガとして物語となるのは、ひとえに、世は歌につれ、人も歌につれるから。  ページを繰るたびに脳内にメロディが流れる「音楽マンガ」は、より強く印象に残るもの。  そこで周囲に、思い出深い音楽マンガは? と聞いたところ、作品の年代も作風もさまざまな声が聞かれた。 「フェイバリットといえばベタだけど手塚治虫の遺作『ルードウィヒ・b』(講談社/手塚治虫文庫全集 BT 86)と、さそうあきらの『神童』(双葉社)ですかね。 「ルードウィヒ・b」は作中、バッハルベルのカノンとかで用いられる対位法という作曲技法を絵にしているんですが、これがさすが漫画家と言った感じで。あとは、間部正志『ノーホシTHEルーザー』(講談社/ヤングマガジンコミックス)。どの作品も、音を視覚化するという点で個人的に出色の出来だと思っています」(43歳・男) 「ストレートに音楽を扱った作品で、最近のものでいちばん好きなのは、さそうあきらの『ミュジコフィリア』ですね。京都の芸大で現代音楽をやっている若者たちを描いた作品ですが、“音を絵で表現する”天才であるさそうさんが、現代音楽を描くとこうなるんだ!というセンスオブワンダーに満ちています。主人公の男の子が、京都の無鄰菴に刺激を受けて、そこの小川のせせらぎとか木々のそよぎを表現した音楽を作るのですが、それをピアノで弾いているのをたまたま耳にした初対面の女の子が、「知ってる、そこ~!」って言うんですよ。同じ感覚を持っている人間だからこそ、瞬時にわかり合える音がある……という、まさにボーイミーツガールの名シーンです」(37歳・女) 「17歳の高校生・カエと7歳年上のピアノ講師・五嶋の恋愛を描いた、『キス』(マツモトトモ/白泉社)。カノンとかsay you love meとか話に沿ってさまざまな曲が登場するのが、サブカルクソ女子高生時分には超絶おしゃれに感じました。興奮しながら友達(サッカー部マネージャー)にも勧めたら『あんたはこういうの好きそうだよねー(笑)』と返されて、今のようにこじらせとかリア充とかいう言葉などまだ存在しない時代でしたが、言い知れぬ格差を感じたものです」(32歳・女) 「萩尾望都先生の『海のアリア』(小学館)は、海で遭難し記憶喪失になった少年アベルが、地球外生命体に体を支配され、楽器となってしまうという物語。人間が楽器になるという、ありえない設定に驚愕しました。奏者を名乗るアリアドと楽器であるアベルの関係性の変化が描かれるなかで、演奏っていうのは奏者と楽器に主従はなくて、共鳴作業なんだと気づかされたり、記憶喪失後のアベルの言動によって彼の家族が抱える問題が浮き彫りになって関係性が再構築されていったり。突飛な設定ながら普遍的なテーマに収束していくのはさすが萩尾ワールド!という感じでした」(35歳・女) 「『ジジメタルジャケット』(泉昌之/ブルースインターアクションズ)は、『ロックを愛する老人たちが熱く燃え、楽器を弾きまくり、お茶をすする!』という紹介文通り、ロックなのにみんなじじいだからほのぼのしている。そのギャップがくだらなすぎて最高です。久住昌之ファンを公言するクドカンですが、『少年メリケンサック』は絶対、この漫画の影響を受けているはず」(31歳・男) 「指の怪我でピアニストへの道を断念した美しい同級生・立花。立花に憧れる真央子は少しでも彼女のことを知りたくて、彼女が好きだというグレン・グールドのCDや本を集めて必死で勉強するのですが……。もともと音楽にはほんとに詳しくない私は、グールドもこの吉野朔実さんの『グールドを聴きながら』(小学館)をきっかけに知り、主人公さながらにCDやら本やら買って聴いたり読んだりしました(黒歴史!)。憧れと焦燥が入り混じる思春期の友情関係は自分にも身に覚えがあるから、平凡な主人公に感情移入していたのかもしれません」(33歳・女)  人生を彩る音楽マンガ。キュンとしたり、ほろ苦かったり、黒かったり……さまざまな思い出を喚起させる。  1950年代からの音楽をテーマにしたマンガを網羅した『音楽マンガガイドブック 音楽マンガを聴き尽くせ』(DU BOOKS/松永良平監修)といった本も出版されていて……。昔の写真を懐かしむように、記憶の奥にしまわれた、思い出の音楽マンガをメロディとともに思い返してみては。 <取材・文/小山武蔵>
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