更新日:2014年06月15日 17:05
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中国で続発する通り魔的犯行。貧困層の不満が一気に噴出か

上海の朝の光景

中国・上海

 日本では、AKB48の握手会で、メンバーら3人が男に刃物で切りつけられる事件が発生し、ファンに衝撃を与えたばかり。  一方、お隣の中国でも無差別切りつけ事件が全国で連続して発生してる。5月2日と3日、湖南省の衝陽駅付近では、連続して切りつけ事件が発生。6日には広州駅前で通行人ら6人が刃物で切りつけられる通り魔事件が起きた。さらに20日には、湖北省麻城市の小学校で、男に刃物で襲われた児童8人が負傷。25日にも広西チワン族自治区北海市の広場でダンスをしていた市民に、暴漢が刃物で襲撃する事件が起きている(『新華社通信』など)。  3月1日に雲南省・昆明駅前で起きた無差別殺傷テロ以降、報道ベースで確認できるものだけでも、中国全土で18件の通り魔・無差別切りつけ事件が起きている。そんな異常事態の中、人民の生活は恐怖と緊張感に包まれている。広東省仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・49歳)は話す。 「他人に興味がないのか、大陸的なおおらかさか、中国人はこれまで風変わりな人がいても誰も気に留めませんでした。しかし最近では、少しでも挙動不審な人がいれば、周りに人が集まる“ドーナツ化現象”がおきる。すぐに警察に通報する人も多いですね。都市部では、警察も常にピリピリしていて、明らかに配置人員が多くなっています」  5月25日には深セン市の繁華街で「通り魔だ!」という叫び声が上がり、周囲の人々が逃げ惑うパニックが発生し、12人がけがをしている。現場には武装警察も出動したが、のちにデマと判明した。  一方の当局は、人民の不安を払拭しようと、通り魔対策に力を入れているが、評判は芳しくない。  上海市在住の旅行会社勤務・向井典明さん(仮名・40歳)の話。 「これまでパトロールに当たるいわゆる“おまわりさん”は丸腰だったんですが、プーチンの訪中をきっかけに、街には拳銃やマシンガンを携行する警察官が目につくようになった。物々しいのもそうですが、ろくに訓練も受けていないであろう彼らに銃を持たせることには異論の声も多い。『通り魔に襲われるより警察の流れ弾に当たる確率のほうが高い』と揶揄されていますよ……」  また、北京市在住の日本車メーカー勤務・内田義隆さん(仮名・44歳)もこう苦言を呈す。 「最近、地下鉄駅構内に入る際の手荷物検査が強化され、ボディチェックも行われるようになったんです。そのため、朝のラッシュアワーは激混みで、検査を受けるために10分ほど並ばなくてはならないこともあるほどです」  人民の生活に支障を来す事態となっている切りつけ事件続発の背景について、中国在住ジャーナリストの吉井透氏はこう分析する。 「階層が二極化していた時代では、貧困層が敵意を向けるのは富裕層だった。しかし、中間層の出現や階層の細分化で底辺の者たちは孤立感を深め、『自分以外は敵』という思いを募らせている。そうしたなか、昆明駅のテロをきっかけに模倣が連鎖しているのでは」  抑圧された貧困層や“負け組”のこうした行為は、当局や社会への反発という視点で見ると、ウイグル族によるテロと同種と見るべきなのかもしれない。 <取材・文/奥窪優木> 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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