スポーツ

イチローが引退会見で語り尽くせなかったこと

「マリナーズ以外に行く気持ちはなかった」

 平坦な道のりでなかったことは、容易に想像できる。日本人野手のパイオニアとしてメジャーリーグに移籍した’00年代初頭のMLBは、なんでも容認されていたドーピング全盛の時代。仕事や私生活で露骨に人種差別を感じる機会は多々あっただろう。建国以来初めてアフリカ系アメリカ人のオバマ大統領が誕生する8年も前の話だ。引退会見でアメリカのファンへのメッセージを問われたイチローは次のように語っていた。 「最初の’01年のキャンプなんかは『日本に帰れ』としょっちゅう言われましたよ。だけど、結果を残したあとの敬意というのは、言葉ではなくて行動で示したときの敬意の示し方というのは、その迫力はあるという印象です。 (アメリカ社会に新入りは)なかなか受け入れてもらえないんですけど、入れてもらったあと、認めてもらったあとはすごく近くなるという印象で、がっちり関係ができあがる。シアトルのファンとはそれができた。僕の勝手な印象ですけど」  引退を決めた理由を尋ねられたとき、ひと呼吸置いてイチローは「マリナーズ以外に行く気持ちはなかった」ときっぱり言い切った。イチローにとってのマリナーズとは’12年7月にシアトルにサヨナラを告げて以降、ニューヨーク、マイアミでの5年半を経ても「その間も僕の家はいつもシアトルにあった」文字通りのホームだった。  時にユーモアを交えながら、真摯な姿勢で会見を締めたイチローは、最後に深々とお辞儀をすると、グラウンドの上でいつも見せてくれた凛々しい姿勢で舞台のそでへ歩いて消えた。ひとつの時代が締めくくられたとき、時計の針は深夜1時をとうに過ぎていた。  会見中、イチローがさらりと言ってのけた言葉が印象的だった。 「いろんな記録は大したものではない。というか、いずれそれは後輩が先輩の記録を抜いていくことは、しなくてはいけないこと」  イチローの現役メジャーリーガーとしての最多安打記録(3089本)は、開幕からひと月もすれば、現在2位のA・プホルス(3082本/エンゼルス・大谷翔平のチームメイト)に抜かれることだろう。イチローが幾つもの記録を塗り替えてきたように、今度は後輩たちがイチローの記録を追い抜いていく。  ひとつの時代の終わりは、新しい時代のはじまりとなる。「(大谷翔平は)世界一の選手にならなきゃいけない選手」とエールを送ったように、すでにバトンは手渡された。会見でイチローが口にした言葉のすべては、新たな時代を迎える野球界を見据えたメッセージだったと考えられる。
イチロー

3月21日、8回の守備から退く際にはスタンドは総立ちに。イチロー選手はベンチ前でナインらと抱き合って最後の試合を終えた

▼妻への思い「おにぎり3000個握らせてあげたかった」……引退会見では弓子夫人が「一番頑張った」と感謝の意を示したイチロー選手。自身のメジャー通算安打は3089だが、夫人が試合前に握ってくれたおにぎりの数は2800個ほどだったとか。また、MLBを「頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」と評し、「日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしい」と話す場面も 取材・文/小島克典 写真/ AFP/ アフロ USA TODAY Sports/ ロイター/ アフロ ※3/26発売の週刊SPA!今週の顔より
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週刊SPA!4/2号(3/26発売)

表紙の人/ 日向坂46

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