「あなたはお尻を触りましたか?」外国人バイトがクビになった悲しい理由
それをベトナム語で表示させてから、スマートフォンを握りしめグエンくんを呼び出した。
「カマタさんが、おしり、触られた、言ってる、なぜ?」
まずは念のため日本語で単語を区切って話してみる。すると彼は、
「私の国、お尻、触る、仲良しの、しるし」
そうか、彼は指導係のカマタさんと打ち解けるために、スキンシップとして触れたわけだ。
「でも、日本人、お尻、触る、嫌なの」
そう伝えると、グエンくんは涙ながらに訴えた。
「知らなかった、気を付ける、私、一生懸命、働く」
結局、翻訳アプリは必要なかった。彼の想いはじゅうぶんに伝わった。その後、カマタさんに文化的な(!?)誤解だったこと、彼が反省していることも説明したが、決して理解しようとはしてくれなかった。
カマタさんはうちの店で5年以上夜勤に週5日入ってくれているベテランで、彼が辞めてしまうと店が回らなくなる。そして週3日の留学生グエンくん……どちらかを選ぶことは本来すべきではないと思った。しかしその時にはすでにどちらかを選ぶことでしか解決できない状況となっていた。
最後まで和解を目指して両者から話を聞いていたのだけれど、次第にカマタさんが仕事をしなくなっていった。そして上司からついに、「全体最適のためにはグエンくんには辞めてもらうしかないね」という言葉が出た。そこで苦渋の決断の末、グエンくんには辞めてもらうことが店として決まってしまった。
彼はやる気がなかったわけでも、悪事を働いたわけでもなかったのに。真面目で一生懸命で親しくなろうとしたのに。悔しかった。自分のふがいなさが情けなかった。しかし私は伝えなければならなかった。こんなに嫌な仕事は社会人人生で初めてだと思った。
この件で、翻訳アプリは最後まで使用することはなかった。日本語は、カタコトでも通じるものなのだ。コンビニ業界では外国語マニュアルを作り込むことに力を注ぐ会社は多いが、そういった「非言語」部分も重視しなければならないと思う。<取材・文/松本果歩>インタビュー・食レポ・レビュー記事・イベントレポートなどジャンルを問わず活動するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり店長を務めた経験あり。X(旧Twitter):@KA_HO_MA
結局、ベトナム人留学生がクビに……
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