「横綱・白鵬が3日間一歩も外に出なかった」“眠りにいい宿”に潜入
地方出張の多いビジネスマンにとって、現地のホテル選びは悩ましい問題だ。夜遊びや接待を重視するなら繁華街の近くがいいだろうし、サウナが好きならあえてカプセルホテルに泊まるという選択肢もある。とはいえ、ベッドの寝心地がいまいちだったり、温度調節が微妙なエアコンの風にさらされたり、体調を崩してしまうことも多々……。そうなれば、翌日は仕事のパフォーマンスも落ちてしまう。当然、プロフェッショナルな人間には厳しい体調管理が求められるのだ。
そんななか、一流のビジネスマンをはじめ、身体が資本のスポーツ選手、コンサートにのぞむ歌手やアーティストが好んで泊まると噂のホテルが福岡にあるらしい。
毎度、空港では「#エアポート投稿おじさん」のハッシュタグをSNSに投下しながら“仕事が出来るオレ”をアピール。いいね!はほとんど付かないが、ローカルなネタを求めて定期的に地方まで赴いている筆者……。
現地では少しでも多くの情報を得るため、朝から忙しなく動き回り、仕事が夜まで及ぶことも少なくない。もちろん、次の日も踏ん張りどころだ。今回はとある案件を取材するため、福岡の博多を訪れていた。 博多の繁華街と言えば中州。酔って千鳥足のビジネスマンや水商売風の女性で溢れかえる。その日の取材が早めに終わったため、ひとりで打ち上げと情報収集を兼ねて飲み屋で少し呑む。そして、シメは川沿いに立ち並ぶ屋台だ。日本人はもちろん、外国人観光客の姿も目立つ。定番の博多ラーメンは800円と割高だったが、昔ながらの風情があり、観光気分を味わえた。 しかしながら、気がつけば疲労困憊。そろそろ翌日に向けてホテルで休むことにした。
今回、宿泊したのは中州から徒歩5分の博多川端に位置する『ホテル グレートモーニング』だ。すべては最高の朝を迎えるために……“偉大なる朝”と名付けられたこのホテル、とにかく快適な睡眠にこだわっているというのだ。
フロントで受付を済ませると、ウェルカムドリンクとして酵素ジュースを炭酸水で割ったものが出てきた。50種類以上の薬草などがブレンドされているそうで、いかにも身体に優しそう。館内には、川のせせらぎ、鳥のさえずりがBGMとして流れている。そして、いざ部屋へ。
扉を開けると、室内は静寂に包まれていた。まず驚いたのは、空気が澄んでいること。ホテルに泊まった際、部屋のニオイが気になることも多いが、ここでは一切感じない。なぜなのだろうか?
見渡すと、すぐにエアコンがないことに気がついた。代わりに設置されていたのは、得体の知れないパネル状の装置だ。
スタッフに話を聞いてみると、これは「HIKARI FIRST」と呼ばれるもので、風を送って室温を調整するのではなく、遠赤外線で人の体感温度をコントロールする自社開発の冷暖システムらしい。室内は無風でまったくと言っていいほど音がしない、ほこりもたたないというわけだ。
ともあれ、さっそくダブルベッドに倒れ込む。普段はカプセルホテルや格安のビジネスホテルにばかり泊まっている筆者としては、このサイズのベッドを独り占めするだけでも感動もの。寝心地はやや堅めな印象。羽毛布団とマットレスは京都の老舗寝具メーカーIWATA社と共同開発、さらにベッドフレームは世界的デザイナーの八木保氏がデザインを手掛けたとのことだ。
洗面所やお風呂のシャワーから出る水は、濾過されたミネラルウォーターに近い水質で飲むことも可能。もちろん、そんな人はいないだろうが、なんと「トイレの水まで飲める」そうだ。シャワーヘッドを調整してミストにすることができるのだが、実際に浴びてみると、たしかにサラサラしていて肌触りがよい。ものは試しと言うではないか。顔と頭を洗い流したついでに、水を口に含んでみたところ……余裕で飲めた。
ちなみにこの原稿は、ホテルの部屋でほとんど書き上げた。音が一切しないので、集中できるのだ。冷蔵庫内のドリンクは、アルコール類を含めて無料。貧乏性の筆者としては、ついつい手が伸びてしまう。
深夜1時頃、ひと仕事を終えて一服しようと思ったが……ホテル内では綺麗な空気を保つため、喫煙をする場合(※電子タバコも含む)は、いったん外に出ないとならないようだ。よって、タバコを吸う人はやや面倒かもしれないと感じた。ともあれ、長い1日を終えて、ベッドに潜り込む。すると、疲れていたこともあるのだろうが、ストーンと眠りについてしまったのだった。
実は筆者、日頃の過労や不摂生が災いしてか(?)、椎間板ヘルニアと咳喘息を患っており、体調が環境に左右されやすい。どうなることかと思っていたが……。結果、目覚めは最高だった。ベッドから起き上がるのも苦ではない。
朝食が、あらかじめ指定した時間に運ばれてくる。福岡の人気店「チョコレートショップ」のチョコクロワッサン。程よい甘さでコーヒーとの相性も抜群。
こんなに気持ちのいい朝を迎えるのは久しぶりかもしれない。まさに、グレートモーニング。東京に帰りたくない……!
今年9月、睡眠評価研究機構代表・白川修一郎医学博士チーム主導の「眠りにいい宿」の審査を受け、正式に認定された『ホテル グレートモーニング』。とはいえ、その道のりは平坦ではなかったという。代表取締役・二枝崇治氏を直撃すると、感慨深そうに話す。
「当ホテルは、去年11月にオープンしました。本当は8月の予定だったのですが、家具を発注しているメーカーが7月の集中豪雨で被害にあわれて。直前で納品できなくなってしまったのです。悩みましたが、オープンを遅らせました。ただ、家具を待って正解でしたね。品質を妥協するわけにはいかなかったので」(二枝氏、以下同)
良いホテルに仕上がっただけではなく、結果的にこの出来事が“ホテルと家具メーカーの絆”として注目を集め、多くのメディアからも取り上げられたという。
そもそも、どのような経緯で眠りにこだわったホテルが誕生したのだろうか。
「弊社は、もともと美容や健康雑貨を長く手掛けてきました。そのノウハウを活かして、健康面に配慮し、仕事で最高のパフォーマンスを発揮できるホテルが作れないものかと。まだオープンから1年未満ですが、私たちの取り組みが結果を出し始めています」
前出の自社開発の冷暖システム「HIKARI FIRST」を採用した“エアコンが一切ないホテル”として評価され、フランチャイズや提携ホテルが拡大しつつあるという。中国にも進出が決定。また、「HIKARI FIRST」は公立の学校、高速道路のパーキングエリアでも導入されるようになったそうだ。
主に宿泊するのは、ホテルでただ寝るだけの人ではなく、“目的”があって福岡に来ている人だという。
「たとえば、大事な商談やプレゼンがあるなど、次の日に“本番”を控えたビジネスマン、セミナーがあって講師をやる人、コンサートで唄う歌手やアーティスト、試合前のスポーツ選手、撮影にのぞむモデルやタレントなど。横綱の白鵬関や千葉ロッテマリーンズの井口監督などにも懇意にしていただいています。白鵬関は2泊3日で泊まられたのですが、一歩も外に出ていません。理由を聞けば、『こんなに空気が良い場所は初めてだ。外に出るのがもったいない』と、一流の方の感性はすごいと思いました」
筆者は若かりし頃、バックパッカーとして国内外を旅してきた経験から、ホテルは安ければ安いほどいい、と考えてきた。しかし、30代半ばに差し掛かり、現実問題として体調面で追いついてこなくもなっている。今後は考えを改めなければならないと思った次第である。<取材・文・撮影/藤井厚年>明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
福岡に出張、仕事や観光で大忙し…
#エアポート投稿おじさん pic.twitter.com/Pp6UHWv3v7
— 藤井厚年(編集記者・ライター) (@FujiiAtsutoshi) October 8, 2019
現地では少しでも多くの情報を得るため、朝から忙しなく動き回り、仕事が夜まで及ぶことも少なくない。もちろん、次の日も踏ん張りどころだ。今回はとある案件を取材するため、福岡の博多を訪れていた。 博多の繁華街と言えば中州。酔って千鳥足のビジネスマンや水商売風の女性で溢れかえる。その日の取材が早めに終わったため、ひとりで打ち上げと情報収集を兼ねて飲み屋で少し呑む。そして、シメは川沿いに立ち並ぶ屋台だ。日本人はもちろん、外国人観光客の姿も目立つ。定番の博多ラーメンは800円と割高だったが、昔ながらの風情があり、観光気分を味わえた。 しかしながら、気がつけば疲労困憊。そろそろ翌日に向けてホテルで休むことにした。
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