急速に進む“脱ハンコ”の風潮に「街のハンコ屋」から悲鳴
河野太郎行革大臣を中心に打ち出された「脱ハンコ」。政府は今後、行政手続きなども押印を廃止する方針だ。昨今は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、多くの企業でテレワークが推進されていたが、重要書類にハンコを押すためだけに出社しなければならない“ハンコ出社”が話題を呼び、巷でも不要論を唱える人が多かった。
そんななか、古くから店を営んできた「街のハンコ屋」は……。
「孫がね、じいじの仕事はもういらないんでしょ? って言うんですよ。これはキツかったし、情けなかった」
埼玉県内でハンコ店を営む吉田隆さん(仮名・70代)はこう言って作り笑顔を見せたが、声は震えていた。父親の代からハンコ店を営み、店の歴史は40年近く。吉田さんが継いでからも20年が経過していた。
「元は勤めていたけどね、不景気から早期退職してさ。最初はこんな仕事嫌だと思っていたけど、技術がいるの。ハンコ以外にも名刺つくったり、年賀状とか暑中見舞いの印刷とかさ。地元密着型で楽しい仕事なのよ」(吉田さん、以下同)
しかし、この10年ほどで店の売り上げは半減。特にこの3年ほどは、以前の3割にも満たない。
「若い人はさ、暑中見舞いなんか書かないでしょう? 年賀状だって書く人は減ってる。携帯電話が普及してからは、みんなやりとりは全部メールだもんね。ハンコだってさ、家庭用のやつは5年に一本だって買わないでしょ」
そんな中、なんとか食えてきたのは得意先からの「名刺の発注」が途絶えなかったことだ。とはいえ、その名刺の売り上げも、ほとんど「ネット」に持っていかれた。
「若い人が名刺をつくりに来て、大体これくらいの金額ですねって言うと怒っちゃう。ボッタクリみたいに言われてね。ネットのオンデマンド印刷だと、下手したらうちの半額以下でいけちゃうの。そりゃ、大きな工場でグワーッて一気にやるから、安くはできるんでしょう?
でも、紙質やフォントとかを客と相談しながら決めてね、商売も軌道に乗ってきたから、もっと見栄えの良いものにしようなんて話で盛り上がってさ、そういうやりとりが楽しかったのよ」
廃業を決めた「街のハンコ屋」
名刺の作成でつないでいたが…
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