仕事

急速に進む“脱ハンコ”の風潮に「街のハンコ屋」から悲鳴

「脱ハンコ」の風潮に怒りの声

ハンコ そして、吉田さんに追い討ち、というより「とどめ」を刺したのが、今般の「脱ハンコ」の風潮である。 「政治家さんたちが、一気にハンコなんかいらないって言い出したでしょ。もうびっくりしたよね。あんな言い方したら、仕事が進まないのも、遅くなるのも全てハンコのせいだ、って思う人いるでしょ?  実際そう勘違いしちゃっている人もいるよ? おまけにテレビ局やら新聞社が店にやってきて『どうですか?』なんて。全く、俺が何したのよ」  元々、売り上げもほとんどなかったことから、店を続けようか迷っていたところではあった。しかし、孫のひと言「じいじの仕事はもういらないんでしょ?」で、あっけなく廃業を決めたのだった――。

自分たちが「いらない」と言われている気分

 怒りに震える同業者もいる。東京都内のハンコ店経営・早川雄二さん(仮名・60代)がこう話す。 「馬鹿にしている。私らにはこの仕事しかないんですよ。役所で押印が廃止されるというのは、役所が決めたことだから仕方がない。ただ、政治家がハンコはいらない、無駄だと言い続ければ、我々までもが『いらない』と言われているような気分」(早川さん) 「ハンコ」がなくなれば、仕事が早く進む、無駄が削られる、という論調があるが、果たして本当にそうなのだろうか。ハンコをなくすことで、できなかった何かが「魔法のように」すぐにできるようになるというワケではない。  しかしながら、脱ハンコによってコスト削減や経済効果が見込まれると叫ばれるなかで、彼らのようにひっそりと消えゆく人々もいるのだ。<取材・文/森原ドンタコス>
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