仕事

メディア過渡期にモデル・アイドルたちが陥った「思わぬ落とし穴」

アイドルの世界に戻ってみたら…

コンサート「同業の友人から『操り人形じゃん』と言われて、掴み合いの喧嘩になりました。でも、冷静に考えてみると言われた通り。悔しくて悔しくて……。でも後戻りできない」  首都圏のライブハウスなどを中心にアイドル活動を行っていたミュウさん(仮名・20代)は、グラビア活動の経験もあるジュニアアイドルだった。成人直前に引退したものの、芸能の仕事が忘れられず、再びアイドルとして業界に舞い戻った。ただ、アイドル飽和の時代。活動は相当に厳しかった。 「一応、事務所に所属して、プロデューサーもいるんだけど、全然売れない(笑)。ライブもお客さんが3人しかいないこともありました」(ミュウさん、以下同)  売れるよう、人気が出るよう、衣装やコンセプトを変えたり、同じ事務所内でメンバーの再編を行うなどしたが、やはり泣かず飛ばず。事務所の方針に失望したメンバーは、それぞれ独自にSNSを使ったプロモーションを行っていたが、ミュウさんのファンだけが急激に増えたという。なぜか? 「インスタでコメントをくれた人には全員に返信をして、どんな衣装をきてほしい、どんなポーズをしてほしいっていう要望にはできるだけ答えたんです。コメントをくれるのは、同年代の女性が多い感じで、それも嬉しかった。だから、どんどん期待に応えたいって。それでファンも増えるなら最高だと思いました」

気がつけば、ファンの操り人形になっていた

 ここにあった落とし穴、それはミュウさんが増え続けるファンの正体を見抜けなかったことにある。どういうことか。 「一気に増えたファンの方は、ほとんどが30代以上の男性でした。アイドルとして見てくれているというより、性的な好奇心を向けられているのだと、同業の友人から指摘されたんです。自分では、性別を問わず、皆さんに応援してもらっていると思っていたからショックでした。でも、すでに男性ウケを狙うのが、自然なことになっていて。衣装もポーズも表情も古臭いし、おじさんにしかウケない。若い子から見たら、時代遅れの人みたいって」  要するに「中高年男性の操り人形」ということを指摘され、激怒してしまったというミュウさんだが、自身の陥った状況はわかっていた。SNSはファンとダイレクトでつながることができる一方で、サービス過剰になってしまえば、まさに「ファンの言いなり」になってしまう。  そんなミュウさんの悩みは、未来が全く見えない、ということ。 「もっと有名になりたい、というより、今のファンの人たちからもっと見てもらいたい、どこにもいってほしくない、という気持ちの方が勝ってしまい、将来のことが考えられなくなった……というのが正直なところです。私、何がしたいんだろうって。昔はあった目標が、わからなくなりました」  オールドメディアと、SNSを含めた新興メディアの違いを正しく理解しておかないと「仕事」の意味も「人気」の意味も履き違えてしまい、気がついた時には自分が何者かもわからなくなってしまう。メディアが「過渡期」にある今ならではの問題と言えるのかもしれない。<取材・文/森原ドンタコス>
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