更新日:2021年01月20日 22:57
仕事

「天井の穴から毒ガスまかれた」コールセンターのトンデモ客たち

「ガスで困ってるから電話したんじゃない!」女性の語気が強まる

 すると女性は「そう。私が寝ている間に、泥棒が入ってきて、お金を盗っていったの」と言う。掘っても同じだった。これは、ガス会社にはどうすることもできない、まごうかたなき警察案件だ。警察には電話を転送できない。  私は、冷静に電話をかける先を間違えていることを伝えた。「お客様がお電話をいただいている手前どもは、◯◯ガスでございまして、泥棒が入った際の対応などに関しては承っておりません。そういったお話でしたら、警察にご相談されてはいかがでしょうか。またガスのことでお困りごとがございましたら、いつでもお電話をお待ちしております」。  泥棒の件とは全く無関係なガス会社に電話しているということを、女性にわかってもらえれば終話できるとばかり思っていたが、そうはいかなかった。 「いや、ガスで困ってるからこちらに電話したんじゃない!」と女性の語気が若干強まった。 「どういうことだろう、どこにもガスは登場していないじゃないか」と、戸惑っていると、女性は次のように続けた。「私の部屋の天井に、穴が空いてるでしょ?あそこから、毒ガスをまかれて私は眠らされたのよ!それで、私が眠ってる間に泥棒が入ったの!」。  まさかのガス案件だった。女性は毒ガスが出ているのでガス会社に電話していたのだ。理にかなっている気もするが、当然、私の会社は一般のガス会社であり、睡眠ガスや毒ガスは取り扱っていない。しかも、天井の穴から毒ガスが出て泥棒が入ったという、奇想天外な出来事も、失礼ながら信憑性が疑われる。

できることは、ただひたすら謝るのみ

 そんな思いが声に乗らないように努めつつ、「毒ガスですね。それは大変なことでございます」と、まずは基本の復唱を忘れずに対応し、寄り添ったうえで、「ただ、そうした件につきましても私どもでは対応できかねます。警察にご相談いただいてはいかがでしょうか」と、再び警察へ電話をするよう促す。  しかし、「あなた、◯◯ガスの方なのよね!?ガスで困っているから電話をしてるのに、そんな無責任でいいと思ってるの!?」と怒りはじめた。  こうなってしまうと、対応できないことを平謝りするしかない。それからしばらく、毒ガスで眠らされて泥棒に入られたという女性から怒声を浴びせられながら、対応できないことを謝り続けた。  電話が終わったのは、およそ30分後。女性の「もういい!」が終話の合図だった。意外にも疲れる対応だった。座って電話対応するだけの楽な仕事とも思われているコールセンターだが、実はこうした対応に、心が削られることもある。
夢のため時間の融通がきくコールセンターで働き出して、早15年。さまざまなコールセンターの職場を転々とし、もはやベテランの域に。夢は叶わないまま、今日もどこかで受話器をとる。好きな保留音は「青く美しきドナウ」
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