仕事

コロナ禍で昼職に就きたい水商売関係者。「金銭感覚の違い」が転職のネックに

コミュニケーション能力や人脈が営業に活かせる

井上敬一 そのうえで、水商売関係者ならではの“強み”もあるという。 「コミュニケーション能力が高いので、商材やサービスの知識が入れば、営業マンとして成果を出しやすい。ほかにもアドバンテージはある。たとえば、高級クラブでホステスをしていれば、企業の社長や役員クラスのお客様を抱えていたりするなど、もともとの人脈が武器になる。すでに信頼関係が築けている知り合いが多いほど、成約も早くて売上が立つ可能性は高いです」  プロジェクトでは、ホステスやホスト、黒服と呼ばれる男性スタッフも含め、水商売関係者・経験者であれば、性別を問わずに募集しているそうだ。  現状、割合としては女性の方がコンスタントに稼働する人が多いとか。 「基本的に、自宅で時間が空いた時に働ける(テレアポができる)のですが、傾向としては、女性の方がマメなところはあるかもしれませんね。  とはいえ、緊急事態宣言の発令時などでホステスの仕事が暇なときは稼働できるけど、店が忙しい場合は、どうしても疲れて後回しになってしまうという人もいるみたいです。ただ、それが今回のプロジェクトのメリットでもあるのですが」  水商売セカンドキャリアプロジェクトの特徴は、“副業・複業”として求人広告の法人営業の仕事に取り組める点だ。 「企業のリクルート自体は、一生なくならない仕事だと思います。個人的には、水商売をやりながら、少しずつ力をつけて、いつでも昼職に移れる準備をしておくことが理想。  僕は6年前、経営していた店をすべて譲って、退路を断つような形で水商売の世界から引退しました。ところが、何から始めればいいのかわからず、すごく困りました。何千万円というお金を溶かしたこともありますね。水商売のキャリアを活かして講師業などもやらせて頂きましたが、今はいつ何があるかわからない時代でもありますから」  プロジェクトでは『キャリオク』『イーキャリア』の商品知識や、テレアポのやり方、企業訪問などの勉強会を実施。慣れるまではソフトバンクの社員が同行して契約までの一連の流れをサポート。セカンドキャリアからサードキャリアにもつながるような経験を積むことができるという。

「誇りを持って仕事をしてほしい」

井上敬一 SBヒューマンキャピタルの支社がある都市ならば、地方の人でもこのプロジェクに参加可能。各地区で営業マンとして働ける。第1期メンバーが実際に大きな成果を出したこともあってか、ソフトバンク側の反応も上々なようだ。 「よくありがちな“会社のイメージアップために一応やっています”ではなく、かなり本気で取り組んでくれています。社内リソースをある程度割いてでも、絶対に形にしていきたいという気概が感じられる。すごく協力して頂いて、感謝していますね」  副業・複業から始めて水商売を引退、現在は本業として働く人もすでに現れており、今後も着実に増えてくることが予想される。 「収入の柱をいくつか持つ意味でも、必ずしも水商売を辞めた方がいいとも思いません。ただ、水商売で培われた力が世のため、人のためになることを知ってもらいたい。  高い時給を支払っている夜の店側にとっても、コロナ禍の現状を考えれば、こうした昼の仕事も積極的に紹介したほうが、かえってスタッフたちの信頼も得られるはず。苦しい時期を乗り越えて、長く働き続けてもらえる可能性が高まるでしょう」  世間の水商売に対するイメージや偏見を変えるきっかけのひとつになるかもしれない。井上氏も手応えを感じているようだ。 「このプロジェクト自体で僕の利益は、ほぼないです。それでも、水商売の世界で20年やってきて、今こそ恩返しをしたいという個人的な思いがある。唯一やり残したことでもあるので、ライフワークに近いかもしれません。  昼の職業の人たちとの間には、大きな乖離があることも事実ですが、水商売の人たちには、誇りを持って仕事をしてほしい。昼と夜、性別の垣根を超えて、お互いの強みを活かせるような社会に貢献できたらうれしいですね」 <取材・文/伊藤綾、撮影/長谷英史、編集/藤井厚年>
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii
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