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「あいつは反ワクチン」職場にまん延する“ワクチン圧力”に震える人たち

口では「君の自由だから」と言いながらも…

コロナワクチン大規模接種会場

コロナワクチン大規模接種会場

 20人ほど在籍する部署のほぼ半分は、その日のうちに予約を済ませたという。 「私もいつかは打とう、とは思っていました。ただ、私は若いし独身。基礎疾患がある方、高齢の方から先に接種してもらい、余っているなら打つか、という程度の認識でした」  坂井さんを除く残りの半分は「注射が嫌だ」とか「面倒くさい」とか、またある同僚は「副反応が怖い」といって接種を見送ろうとしていた。だが、そこにやってきたのは前出の部長と二人の副部長。さらに、重役クラスの幹部社員も加わっていた。 「部長が“ワクチンはいつ打つの?”としきりに聞いてくるんです。会話の最後には“まあ、君の自由だから”というのですが、“圧力”を感じるんです。幹部も後ろでウンウン頷きながらその様子を見ている。私が何か間違ったことをしているようで気まずい雰囲気でした」  それから一週間ほどして、坂井さん以外の全員がワクチンの接種を受けたが、この時には「圧力」も相当なものになっていたという。 「朝なんて、おはようの前に“いつ打つの?”と部長に言われる。日に何度も“ワクチンを打たないデメリットがこれだけある”という会社の医務室からのメールが届きます。もちろん“君の自由だ”とも言われますが、ほぼ強制ですよ」  坂田さん自身、ワクチンを接種すれば五年後に死ぬとか、コロナは風邪にすぎないなどといったデマは信じていない。だが、ここまで接種を迫られると「天邪鬼になってなんだか打ちたくなくなってくる」と漏らす。

静かなワクチン争奪戦にウンザリ

 関西地方の会社に勤務する幸田かな子さん(仮名・30代)の職場でも職域接種が始まり、同僚の正社員のほとんどが1回目の接種を済ませている。だが、幸田さんは接種の予約もしていない。 「予約が始まった時、みんな我先にと飛びついたんです。上司なんか、部下に黙って自分だけ上役とともに先に打っていたようで、部下の反発を買っていました。そういうのを見ていると、確かにコロナで死ぬような思いをしたくはないけど、こういう風に浅ましくなったらもっと嫌だと思って」(幸田さん、以下同)  当初、職域接種を受けられる人数は制限されており、だれもが顔には出さないが、静かなワクチン争奪戦が始まっていた。ある同僚は「ワクチンなんかいいよ」と笑っていたのに、実は翌日に接種が控えていたり、周囲に「打たないよね?」と確認した上で、自分だけがこっそり打っている……という事例も散見された。  そんな姿を見て、幸田さんは「もっと後でいいや」と感じたという。 「私が予約していないことを知った上司は、相当に驚いたんでしょう。悩みがあるならなんでも言ってくれとか、最初は優しくしてくれていたのですが、私がもう少し先でいいという態度を崩さないと、今度は部署全体宛に、ワクチンを打っていない人がいかに会社にとってマイナスか、メールで送り始めたんです」  部署内の未接種者はあと2人という状況。もう1人は産休中の女性社員。要するに、メール内の指摘は、幸田さんただ1人に向けられたものであることは明白だった。
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もう騒動に巻き込まれたくない
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新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題やニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。

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