更新日:2024年02月01日 15:38
ライフ

コロナ太りや暴飲暴食で生活習慣病患者が増加。医師が警鐘「高尿酸血症は死亡リスクにもつながる“第4のリスクマーカー”」

コロナ禍で「痛風」「高尿酸血症」患者が増加中

 長引くコロナ禍の影響で多くの人が“変化”を強いられた。そのなかで、生活習慣が乱れてしまったという人も少なくない。テレワークでほとんど自宅に籠もりっきり、昼食はコンビニ弁当やフードデリバリーサービスの宅配で済ませ、ついつい昼間から“プシュッ”と缶ビールを1本……気がつけばお腹がぽっこり、“コロナ太り”していたなんて話は珍しくない。
テレワーク中に食事

多くの人がコロナ禍で生活習慣が変化した(※写真はイメージです。以下同)

 そんななか、日本生活習慣病予防協会が362名の医師(開業医64名、勤務医298名)を対象に行った調査によれば、コロナ禍で約半数(48.9%)の医師が「高尿酸血症」「痛風」のために新たに受診する患者の増加を実感しているという(2021年7月2日〜7月5日実施「心血管疾患と生活習慣病との関連性に関する調査」より)。  昨年9月に行った調査では、約3割(33.4%)だったことから、先の見えない自粛生活の継続により年々患者が急増していることが分かる。  メタボ(かくれメタボも含む)で運動不足、過食、飲酒量が多く、ストレスが高い。そんな人たちは要注意かもしれない。生活習慣病の痛風といえば、健康診断の項目で「尿酸値」の高い人が罹患する病気として知られているが、高尿酸血症とは何なのか。 「高尿酸血症は、高血圧、糖尿病、脂質異常症に次ぐ、“第4のリスクマーカー”である」と指摘するのは、日本痛風・尿酸核酸学会ガイドライン広報委員の今田恒夫氏(山形大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学・衛生学講座 教授)。  日本人の死亡原因の第2位である心血管疾患を引き起こし、死亡リスクにつながる可能性まであるという。 先日ようやく緊急事態宣言が解除されたが、今後も「新しい生活様式」は続いていく。何か手軽に改善できる方法はないものか……。

高尿酸血症は死因にもつながる“第4のリスクマーカー”

今田恒夫

今田恒夫氏

 痛風はよく知られた病気だが、果たして高尿酸血症とは? 「まず、食べ物やアルコールなどに含まれる“プリン体”が、体内で分解されて生じる物質が尿酸です。それが血液中にたくさん溜まっている状態の指す病気を『高尿酸血症』と呼びます」(今田氏、以下同)  具体的には「血清尿酸値が7.0mg/dlを超える状態」と定義されている。前出の調査結果では、コロナ禍で患者が急増しているとのことだった。  高血圧や糖尿病、脂質異常症は死亡リスクを高める「生活習慣病」として認知されているが、今田氏は特に成人男性において「高尿酸血症は、第4のリスクマーカーである」と強調する。山形大学の研究グループでは、他大学とも協力しながら2008年より健康診断のデータをもとにした追跡調査を行ってきたのだという。 「私たちが研究した結果では、高尿酸血症は、トリプルリスクと呼ばれる高血圧や糖尿病、脂質異常症などの影響をのぞいて分析しても、明らかに死亡リスクにつながる病気であることがわかりました。死亡に対していちばん影響が強いのは高血圧、次に糖尿病。じつは、私たちの分析では、脂質異常症よりも高尿酸血症のほうが影響する度合いが強いとの結果でしたので、第3と言ってもいいのかもしれません。これは、日本人の約50万人の健康診断のデータから解析したものです。  ただ、これは男性と女性では意味合いが異なります。高尿酸血症は、女性の場合は非常に少ない。一方で、成人男性は20%ぐらいの割合でなっています。つまり、“男性の場合は要注意”ということです」

高尿酸血症の恐ろしさ。リスクは「痛風」だけではない

高尿酸血症

医師を対象にした調査で、高尿酸血症は4番目という結果だった。表は「心血管疾患と生活習慣病との関連性に関する調査」より

 今年7月、日本生活習慣病予防協会が362名の医師を対象に心血管疾患・総死亡と生活習慣病の関連性に関する調査を行ったところ、83.7%が高尿酸血症を注視していると回答。さらには、81.2%が死亡につながるリスクになりうると答えている。 「高尿酸血症の患者は、同時に高血圧や糖尿病などの病気を併発していたり、他の要素も抱えていたりすることが多いです。一般の診療している医師にとって、どこまでが高尿酸血症のせいなのか、厳密にわけることは難しいのかもしれませんが、ほとんどの医師が目の前の(高尿酸血症の)患者に対して“いろんな病気になりやすく危ない”と考えているのは間違いないことです」  そのうえで、今田氏は高尿酸血症が心血管疾患を引き起こす理由を次のように説明する。 「実際に高尿酸血症から脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患に至る人が多いのですが、これにはいくつかの説があります。  一つ目は、尿酸が結晶化した“尿酸塩”と呼ばれるものが組織にくっつくことで炎症を起こす、痛風になってしまうのと同じパターン。二つ目は、尿酸が結晶化せずに、そのまま細胞のなかに入り、細胞を壊したり、血管を傷つけたりするというものです。  三つ目は、プリン体から尿酸に変わる際、キサンチンオキシダーゼという酵素が働きます。そのときに“酸化ストレス”という身体にとって悪い物質も同時につくられてしまうので、それが血管を傷つけてしまう。主にこの3つの考え方がありますが、どれも可能性がありますね」

「自覚症状がない」気づいたときは危険な状態に陥っている

激痛

知らぬ間に尿酸が蓄積され、ある日いきなり足に激痛が走る……なんてことにもなりかねない

 尿酸値が高い人の病気といえば「痛風」が有名。関節が赤く腫れ上がり激痛が走る。足を地面につくことができず、少し触れることさえ耐えられない痛みなのだという。一方、高尿酸血症の恐ろしさは自覚症状がないことだと今田氏は話す。 「ほとんどの人が高尿酸血症と聞いてもピンとこないのは自覚症状がないから。自分には関係のないことだと思ってしまうんですね。痛風は何年も進行した果ての状態。じつは、その前に長期間にわたって尿酸が蓄積されているのですが、その間は痛くも痒くもありません。そのまま放置してしまい、自覚症状がある病気になって、ようやく気づいたときには危険な状態に陥っている。  たとえば、動脈硬化や心筋梗塞、腎不全になって、後から医師に『尿酸が悪さをしていたんだね』と言われても取り返しがつかないんです」  症状がないからこそ、多くの人が「自分には関係のない病気」と油断してしまうのだ。

コロナ太り、運動不足、暴飲暴食の人は要注意

コロナ太り

“コロナ太り”した人も多いはず

 40代の患者が多いとはいえ、30代の若い世代からも注意しなければならないと今田氏は警鐘を鳴らす。 「高尿酸血症の割合は、30代男性の20%〜30%です。しかし、健康診断で尿酸値が引っかかっても病院に行かない、あるいは治療を自己判断でやめてしまう。  患者さんを診察していて実感するのは、『自分は大丈夫』と思いがち。若い頃の感覚を引きずって、仕事が忙しくても無理をして頑張ってしまい、食生活が乱れていても問題ないだろうと勘違いしてしまうのが30代なんです。  もしも“リスクの高い生活”を続けていれば、今は無症状でもすでに高尿酸血症による障害が始まっていて、そのうちに痛風の発作を起こす。もう少し長い目で見れば、50代で心臓病や脳卒中、腎臓病になってしまう予備軍と言えます」
飲酒

自粛生活のストレスがたまって飲酒量が増えたという人も少なくないだろう

 では、尿酸値の上昇を招く生活習慣や行動パターンとは、どのようなものだろうか。特に現在はコロナ禍でテレワーク中心の人が多いはずだ。 「外出自粛で通勤の機会が減って運動不足。その結果、“コロナ太り”を引き起こし肥満状態の人。自宅に籠って昼食は野菜よりも肉中心、好きなものばかり続けて食べている。食事の偏りやお酒の飲み過ぎ、食べる時間帯もバラバラになっている人は、尿酸値が上がりやすいと言えます。これは高尿酸血症に限らず、生活習慣病全般に危険な状況です」  今田氏は、暴飲暴食や運動不足・肥満に注意を呼びかける。 【高尿酸血症になりやすい人の特徴】(一例) 1.プリン体を多く含む食事が多い アルコール類(特にビール)や、プリン体を多く含む肉類や魚類等を過剰摂取している。 2.肥満・メタボの人 患者の多くが肥満やメタボリックシンドローム。ホルモンの関係で尿酸を尿で排泄しにくくなり、体内に溜め込んでしまう。食事でプリン体を大量に摂らなくても尿酸値が上がりやすい。 3.体質・遺伝 家族や親族に痛風や高尿酸血症の人がいる場合など、尿酸を捨てにくい体質・遺伝の要素もある。 4.腎臓の働きが弱い 腎臓の機能が低下すると、尿酸がうまく排泄されず、血液中の尿酸値が高くなってしまう。

尿酸値対策は手軽にできる食生活から

金子希代子

金子希代子氏

 日頃の食生活で何か簡単にできる尿酸値対策はないものだろうか。  日本生活習慣病予防協会が実施した前出の調査(2021年7月2日~7月5日実施「心血管疾患と生活習慣病との関連性に関する調査」)にも関わった金子希代子氏(日本生活習慣病予防協会役員、帝京平成大学薬学部 教授)がこう話す。 「以前から痛風の患者さんは増加傾向にありました。これまでは3年毎の国民生活基礎調査で10万人ずつ増えていたのですが、2019年に約125万人、2016年は約110万人だったので、増加数が1.5倍(15万人)になっています。その理由は判然とせず、専門家たちの間でも『なぜだろう』と話していたところ、追い討ちをかけたのがコロナ禍です。  今回の調査で半数の医師たちがコロナ禍において痛風や高尿酸血症の患者さんの増加を実感しているという結果に私自身も驚いています。高尿酸血症の患者さんは、痛風の10倍はいるとも言われているので実際には相当数の人がいるはずなんです。コロナ禍で対策の必要性を感じていますね」(金子氏、以下同)
フードデリバリーサービス

コロナ禍でフードデリバリーサービスが人気

 そこで、痛風や高尿酸血症を予防するためのアドバイスをもらった。 「テレワークで運動不足となり、家から出ずに美味しいものを取り寄せて、夜は宅飲みをするなど、食生活が乱れていることが原因として考えられます。高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインとして、生活指導の項目には『食事療法』『飲酒制限』『運動の推奨』の3つがあります。  運動については、1日8000〜9000歩程度を歩くのがよいとされています。およそ10分歩くと1000歩程度なのですが、いちどに歩き続ける必要はありません。日常生活のなかで歩けばいいので、軽いウォーキングやエレベーターを使わずに階段をのぼることなどを取り入れてみましょう。  昼食や夕食にコンビニの弁当や宅配サービスを利用する機会も増えていると思いますが、それ自体が悪いというわけではなく、いちばんは“バランスのよい食事をする”ということです。  ご飯があって、肉や魚などの主菜があって、野菜やキノコなど二品程度の副菜や味噌汁がついているのが理想。プリン体が多く含まれている肉や魚、果糖やショ糖(砂糖)の入った甘いものを食べ過ぎないことです。お酒は、とりわけビールがプリン体を多く含んでおり、地ビールなど味が濃くなるほどに含有量が増えていきますが、“適正量”を目標に節酒しましょう。目安としては1日あたり、日本酒ならば1合、ビールならば1本、ウイスキーならば60mL(ダブル1杯)程度です」  また、なかには尿酸値の上昇を抑制する効果が期待できる食品もあるという。 「世界中の研究でエビデンスが明確になっており、多くの医師から推奨されているのが乳製品です。また、乳製品はプリン体も少ないという点でもお勧めできます。そのなかでも、ヨーグルトにはプリン体を分解する働きを持つ乳酸菌を含むものもあります。成人が毎日牛乳を飲むのは難しいと思いますが、ヨーグルトならば手軽に摂れるのではないでしょうか」
ヨーグルト

アンケート調査では、乳製品のなかでもヨーグルトを推奨する医師が多かった。表は「心血管疾患と生活習慣病との関連性に関する調査」より

 前述の医師向けアンケート調査においても、「手軽にできる尿酸値対策として患者さんに乳製品をお勧めしたいと思いますか?」との質問の回答をみると、7割超(71%)の医師が、高尿酸血症患者の乳製品摂取を肯定的に捉えている。  具体的に推奨したい乳製品の種類としては、なんと「ヨーグルト」が1位。ヨーグルトは、高尿酸血症の増悪を抑止できる可能性があることが知られている* 。また、手軽に摂れるということもあり、始めやすい尿酸値対策としては、数ある乳製品のなかでも医師はもっともお勧めとして挙げているようだ。 * Hyon K. Choi, et al. N Engl Med 2004;350:1093-1103  尿酸値対策は、基本的に節制・我慢の生活が続く。そのようななかでも、積極的に取り入れて対策ができる食品があるというのはとてもありがたい。  まだまだ「新型コロナ発生前の日常」には程遠い。不摂生な生活を続けていれば、知らぬ間に危険な状態に陥っている可能性さえあるのだ。痛風や高尿酸血症で頭を抱える前に、まずはできることから始めたい。 取材・文/藤井厚年 提供/一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
おすすめ記事