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「まん防には従わない」自称・焼肉ヤクザの独特すぎる経営哲学

「とりあえず1月末までは通常営業のままですね」  戦後の闇市から上野はアメ横で営業している「とらじ亭」(某有名焼肉チェーン店とは違う)は、昭和の時代がそっくりそのまま残されたような店構えの焼肉屋。ホルモンが別格で旨いと常連客の絶えない知る人ぞ知る老舗の名店だ。  その4代目社長であり自称・焼肉ヤクザの音羽宏律氏は、東京都の時短要請に対して当面は応じないと言う。

「まん防には従わない」理由とは

図1

創業70年以上となる老舗焼肉店「とらじ亭」。日暮里、神田、御徒町でそれぞれ展開する

 サングラスがトレードマークの、老舗焼肉店のイメージとはかけ離れたその風貌は、店舗前の看板やメニューの至る所で異彩を放っているが、実は上場企業のトップセールスマンでもあった異色の経歴を持つ。  父親の代までは上野アメ横の本店のみの営業だった「とらじ亭」を、神田や日暮里にも支店展開し、独自の経営哲学で老舗焼肉店をイノベーションするヤクザな社長は、このコロナ禍をどのように見ているのか。  東京都の新型コロナウイルス感染者数が1万人を超えた。全国の多くの地域でまん延防止等重点措置が実施され、夜の街や観光地から人出は、年末年始の喧騒が嘘だったかのように消えた。メディアは連日、閑散とした繁華街と閑古鳥の鳴く飲食店を取り上げ、店主らの嘆き節を報じている。

批判と罰則覚悟で東京都の要請を拒否

図2

とらじ亭の4代目社長・音羽宏律氏

 2年にも及ぶコロナ禍において飲食店ばかりが狙い撃ちされているという批判もあれば、逆に飲食店ばかりに協力金が支給されている現状に不満を吐露する外野の声もある。様々な意見が噴出するコロナ第6波と行政のまん防措置であるが、とらじ亭の音羽氏の意見は独特だ。 「政府が悪いとか東京都が悪いとか思ったことは無い。岸田さんも小池さんも自分たちがやることをやっているだけ。コロナは政治にも飲食店にも『どう生き残れば良いのか?』という問題を突き付けている。飲食店がどう生き残るのか必死で考えているのと一緒で、政治家も自分たちがどうすれば生き残れるのかを必死に考えているだけ」  だから「とらじ亭」としては、このコロナ禍でどう生き残るのかだけを考え、その結果、当面の間は、仮に過料が課せられることになっても東京都の要請に従わないことを決めた。あっちはああする。こっちはこうする。隣はどうだ。そんなことばかり気にしていたら、生き残れない。社長の声は決然としていた。  批判があるのは分かっているという。 「個人店や中小の飲食店は、地域に根差してやっている。町会や青年会の繋がりもある。そんな中で、自分たちだけが『営業』に舵を切るのは本意では無いしリスクも大きい。実際に上野でも(深夜営業を行い)仲間内から外された人もいる」  緊急事態宣言時に、東京都の要請に従わず深夜まで営業をしていたアメ横の居酒屋が何度もテレビに取り上げられていたのも知っている。店には、家賃を支払わなくてはいけない、アルバイトの働き口を守らなくてはいけない、そんな事情がある。ただ一方でその店が今までに無いほどの利益を上げ、結果的に支店を新たに出店したという事実もある。 「10人いたら10人の意見があって良いと思う。コロナのせいにしたり、誰かのせいにしたりはしない。自分のことは自分が決める。責任を取るのも自分自身だから」
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2回目の緊急事態宣言下では、食肉加工工場で無償奉仕
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