仕事

「まん防には従わない」自称・焼肉ヤクザの独特すぎる経営哲学

2回目の緊急事態宣言下では、食肉加工工場で無償奉仕

 ここまでであれば、まん防下の東京都の要請に従うのか従わないのかの話であって、従わない側の人たちの意見の一つとして捉えることが出来る。しかし音羽氏の話はここからが面白い。 「結局、今はすべて二極化している。収入や可処分所得もそうだし、働き方そのものもそう。出来れば働きたくない、家で寝ころびながらネトフリ観ていたいという人もいれば、もっともっと働きたいという人もいる。『自分らしい時間』という言葉が持てはやされて、働きバチのように仕事に没頭するのがダサいという風潮がある。でもその風潮は、実は『持っている人』や『持ちたいと思っている人』たちが吹聴しているもので、世の中の人が楽に生きようとか、自由を謳歌しようと言えば言うほど、『持っている人』たちにより富が集まるようになっている」  音羽氏は、だからコロナは「チャンス」だと言う。  実際に、2回目の緊急事態宣言(2021年1月~2月)時には、本業の焼肉店の営業のほかに、朝の7時から昼までは高島平の食肉加工工場に詰め、職人たちと一緒に牛肉加工の仕事を4か月間続けた。もちろん無償で、である。  自分がお客さんに提供している商品をより深く知るための修行と位置付けた。はじめは冷やかしであろうと斜に構えていた職人たちも、音羽氏が真剣に取り組む姿勢を見て、食肉加工のいろはを教えはじめた。同工場の社長も音羽氏をいたく気に入ったらしく「何かあってもお前の店は絶対に助けてやる」と言った。

コロナ禍で高騰してしまった食肉の輸出にも取り組む姿勢

 焼肉屋を営むにあたって、卸元との信頼関係は世の中が思っているよりとても大事で、その信頼関係が肉の質に直結すると言っても過言ではない。 「すべては生き残るため」と言い切る音羽氏は、今回のまん防下でも決して下を向かない。 「実は今、ホルモンの価格が高騰しています。中国や韓国から、日本のホルモンを輸入したいという声がある。今までは日本の牛肉は高くて、一般の流通として日本から輸入したいという声は無かった。しかしこのコロナの2年間、ずっと経済を止めていた影響で、日本の牛肉が諸外国と比べ相対的に安くなってしまったんです。日本の焼肉屋としては悲しい話かも知れませんが、これからは日本の肉や内臓の輸出の橋渡しもしていきます」  事業再構築支援金の支給が決まった。まずは食肉を加工する工場の設立に取り組む。協力金に頼ることなく、先々を悲観することもなく、絶対に生き残ってやるという意地が音羽氏の力だ。  取材中、料理を運んできたアルバイトの女性に少しいじわるな質問をしてみた。社長はこう言っていますけど、社員やアルバイトの立場としてはどう思いますか? 「良いと思いますよ。もちろんコロナには十分気を付けなくちゃいけないし、東京都の認証も取ったし、実際に出来る事は全部やっています。その上で私は、社長の考え方は嫌いじゃないです」 「本当にありがたい」と音羽氏は相好を崩した。 取材・文/エリオット根須
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