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ロシアのウクライナ侵攻の陰にある“サイバー戦”という脅威

 世界中から非難を浴びつつも、ウクライナ侵攻を強行したロシア。2014年のクリミア併合から今回の軍事侵攻に至るまで、情報操作、世論操作など、情報空間において様々な活動を推し進めたロシアの活動を知ることで、彼の国の狙い、戦略が見えてくるという。  防衛駐在官として外交・安全保障の最前線で勤務してきた佐々木孝博氏の近著『近未来戦の核心サイバー戦-情報大国ロシアの全貌』より、一部を抜粋して紹介する。

ロシアの安全保障の考え方とは?

  ロシア 軍隊 ロシアは領土全般にわたり平坦な地形が多く、天然の障害が少ないことから歴史的に度々外部からの侵略にさらされてきた。そのため、外部から見ると独特の安全保障観をもっている。そのような地政学的・歴史的背景に基づく安全保障観は、過去から現在に至るロシアの安全保障政策に大きく影響している。  2000年にウラジーミル・プーチン(Владимир Владимирович Путин)が大統領に就任し、ボリス・エリツィン(Борис Николаевич Ельцин)政権下で進められた安全保障政策を見直したロシアは、「大国ロシアの復活」を国家目標に掲げ、安全保障面での基本文書「国家安全保障構想(現在では国家安全保障戦略)」や「軍事ドクトリン(=軍事教義、軍事行動の基本原則)」を改訂した。そのなかでロシアは、冷戦時代のソ連のような超大国には及ばないものの、多極化世界の有力な一極としてユーラシア大陸にまたがる巨大な地域大国を目指そうとした。  しかしながら、第一次プーチン政権初期においては、エリツィン政権の負の遺産とも言うべき、中央と地方の複雑な関係、新興財閥(オルガルヒー)による企業の独占化、行政から企業にまで至る汚職体質、急速な市場経済への移行に伴う否定的な影響、さらにはチェチェン紛争に代表されるような不安定要因を抱え、国内問題に専念せざるを得ない状況に追い込まれていた。それにくわえ、国力そのものが疲弊していたため、北大西洋条約機構(NATO)の第一次東方拡大やユーゴ空爆など、ロシアにとって好ましくない国際情勢が生起しても、これらに対して有効な対抗策を打ち出すことはできなかった。

米国同時多発テロ以降の対米協調

 こうした情勢のもと、2001年9月11日、米国において同時多発テロが起こった。チェチェンの武装勢力を国際テロと位置づけるロシアは、この機をすかさず捉え、米国とともに国際テロと戦うという大義名分を欧米に共有させた。対米協調を行うことによって、欧米にチェチェン問題を国際テロと位置づけさせ、この問題に関する干渉を防ぎ、安全保障環境の改善を図ろうとしたのである。  それにもかかわらず欧米は、イラク戦争、ウクライナやグルジア(ジョージア)のカラー革命支援、NATOの第二次東方拡大、コソボの独立承認、米ミサイル防衛システムの 東欧配備計画など、ロシアにとって否定的な影響を及ぼす政策をとり続けた。そのためロシアは、9・11テロ以降行ってきた対米協調は必ずしもロシアにとっての安全保障環境の改善には寄与しないということを認識するに至った。 欧米との協調路線に安全保障上の利益を意図したように見出せないと判断したプーチン大統領は、これからの安全保障の基本方針を次期政権に引き継がせるため、2008年2月に政権移行を前にして「2020年までの国家発展戦略」を制定した。そこに示された 基本方針に基づき、プーチン路線を引き継いだドミトリー・メドベージェフ(Дмитрий Анатольевич Медведев)大統領は、2000年制定の「国家安全保障構想」および「軍事ドクトリン」の改訂作業に着手し、2009年5月に「2020年までの国家安全保障戦略」を、2010年2月には新たな「軍事ドクトリン」を制定した。
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ロシアによる多数のサイバー攻撃
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近未来戦の核心サイバー戦――情報大国ロシアの全貌

大国ロシアをベースに「サイバー戦」の全貌を元在ロシア防衛駐在官がひもとく!

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