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益子直美「監督が怒らなくても強くなれる」元全日本代表が描く学生スポーツの未来

今年4月、熊本県の私立秀岳館高校のサッカー部での暴行事件を受けて、学生スポーツのありかたが問われている。そんな中注目が集まっているのが、8年前に始まった「監督が怒ってはいけない大会」というバレーボール大会。一体どんな大会なのか、開催者であるバレーボール元日本代表の益子直美さんに話を聞いた。

自身の苦しい経験から生まれた大会

益子直美

益子直美さん

――「監督が怒ってはいけない大会」を始めたきっかけはなんですか? 益子直美さん(以下、益子):何より子供達が怒られている姿を見たくなかったからです。 ――益子さんご自身がバレーボールをやってこられた中では怒られてきたんですか? 益子:怒られっぱなしでしたよ。バレーボールが大好きではじめたんですが、そのせいであっという間に大嫌いになりました。エースになると、怒られるだけならまだしも殴られることもあったので、辞めることしか考えていませんでした。 ――かつては「厳しい指導=強くなる唯一の方法」という風潮はありましたね。 益子:そうですね。でもやっぱり、体も脳もまだまだできていない学生時代に、怒る指導によって「スポーツが楽しくない」と思わせるのは本人にとっても日本のスポーツ界にとってもよくないことですよね。 ――なぜ、怒る指導が多かったのだと思いますか? 益子:ほとんどの学校が勝利至上主義でしたよね。だからこそ、益子直美カップ(監督が怒ってはいけない大会)だけは楽しい大会にしようと思ってはじめました。

新しい試みは誰しもが戸惑いながら

――回を重ねるごとに、コンセプトも浸透してきたと思うんですが、最初の頃は参加者にも戸惑いが多かったのではないですか? 益子:初めて参加される監督さんの中には、怒っていることに気づいていない方も多くいましたね。大会中に怒っていると私が注意しにいくんですが、それに対して「え?怒ってないですよ」と返ってくることもよくありました。 ――怒りの尺度は人それぞれありますからね。 益子:私たちは指導者さんの言葉や態度、表情はもちろんですが、子供達の表情や反応も見ているんですよ。その上で注意をさせていただいていますが、最初の頃はそれでも「怒ってねーし!」とさらにお怒りになる方もいましたね。 ――ずっと怒ってきた人が、それを我慢して試合に臨むと、どのような指導をされるんですか? 益子:怒るのをやめたらすぐに、褒められるようになるということはなくて、多くの指導者さんは、何も言えなくなっちゃうんですよ。もう、ベンチで全く動かなくなっていた方もいました(笑)。ただ、何もしていなくても選手たちはミスをすると、こわばった表情で指導者さんの様子を伺ってるんですよね。 ――それまでの練習や試合で怒られ続けたことが、染み付いちゃってるんですね。 益子:私たちはそうした指導者さんに、怒りを抑えてくださったことに感謝を述べながら、「選手のいいところを褒めてみましょう!」ってアドバイスをしたりしています。そうすると、なんだか恥ずかしそうにしながらも「い、今のサーブは、よ、良かった!」って言ってくださったり。よくぞこの大会に出てきてくれたなって感じです(笑)。
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勝利に厳しさは必須なのか
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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