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益子直美「監督が怒らなくても強くなれる」元全日本代表が描く学生スポーツの未来

自身も怒る世界からの脱却に苦労した

――怒ることが当たり前の世界に長くいると、それを止めるのは本当に大変ですよね。 益子:私自身も怒られて、あんなに嫌な思いをしたのに、そこから脱却するのにとても時間がかかりました。この大会を始めたころは「本当にこれでいいのかな」「怒った方が強くなるんじゃないかな」と、揺らいだこともあります。 ――それだけ「怒る指導」が、何十年たっても人の心を抑圧しているということですね。 益子:現役引退後に、アトランタ五輪のレポーターをやらせてもらったことがあって、成田空港からアトランタに出発する選手にインタビューしたんですね。そしたら「オリンピック楽しんできます!」みたいに答える選手がいて、その人たちに「日の丸つけていくのに、楽しむことなんて考えるなよ!」って、めっちゃムカついてました(笑)

学生スポーツの未来は

――まもなく夏が来ます。学生スポーツでは大きな大会もはじまり、一層気合が入りますね。その気合が「怒り」につながってしまうこともあると思いますが。 益子:コロナでここ数年、多くの全国大会が中止になっていました。なので、数年ぶりの全国大会という部活も多いんです。それで、いつも以上に気合が入ってしまっているのか、「高圧的な指導があった」という報告が、私のところにもものすごくたくさん届いていて、強い危機感を感じています。 ――これまでの勝利至上主義が、さらに強まるのは必然かもしれませんね。 益子:全国大会に向けた予選はすでに各地で始まっていますが、考えなくてはいけないのは「トーナメント方式で本当にいいのか」ということです。「負けたら終わり」という状況が続くことで、どうしても切迫して来ますよね。そこで、リーグ戦にするのがいいと思っています。海外では学生スポーツはリーグ戦を行なっているところは多いんですよ。 ――日本と海外ではスポーツとの関わり方に違いはありますか? 益子:日本では中学でも高校でも「3年の夏」という一点にのみ向かっていくところがありますね。しかし他の国では「生涯スポーツ」として関わっていくんですよ。そうした国では、勝利はもちろん大事ですが「スポーツを通して学びを得る」という感覚が強いです。スポーツマンシップって学んだことありますか? ――選手宣誓でよく聞く言葉ですが、学んだことはないですね。 益子:私もキャプテンとして選手宣誓を何度もしましたが、学んだことはなかったんです。本当に遅いんですが、近年になって初めて、スポーツマンシップのセミナーを受けたんですよ。一口でお伝えできるような内容ではないんですが、そこで発見することが多かったので、それを大会に生かしていきたいと思います。 監督が怒ってはいけない大会 部活動の中で起こる暗い事件。その報道を見ながら「どこかの悪い人」がやっていることだと思ってしまいそうになる。しかし私たちもまた、そうした事件が起こってしまう制度と空気感の時代に育って来た。益子さんの取り組みを聞いて、一人一人が文化を変えていかなくてはいけないという、身につまされる思いになった。 <取材・文/Mr.tsubaking>
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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