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益子直美「監督が怒らなくても強くなれる」元全日本代表が描く学生スポーツの未来

勝利に厳しさは必須なのか

監督が怒ってはいけない大会――厳しい指導や厳しいメニューがないと、チームは強くならないと考える方もいると思いますが、監督が怒らずに強くなることは可能なのでしょうか? 益子:可能です。まず、私自身の経験から言うと、厳しい指導の中で続けていく人っていうのは少数派で、みんな辞めていっちゃうんですよ。 ――その中に才能を持った人がいたかもしれませんね。 益子:それに加えて、厳しい指導やメニューで、選手の自信を保つものが練習量しかないんですね。私も休むことが怖かったですし、「こういう選手になれ」と求められるんです。でも、成長して自信を持つには「自分で決めたことをクリアしていく」ことが大事だと思います。私も、人に決められたものでは、自分の成長に繋がりませんでした。今だから言えますが、ほんっとにやりたくなかったんで(笑) ――それでも勝敗は、スポーツの醍醐味である魅力の一つですよね。 益子:私の大会は「楽しむこと」を大事にしていますが、勝敗を手放せと言っているわけではないんですよ。ですが、怒っている指導者さんって「怒りを手放す=勝利を手放す」と感じていらっしゃる方が多いんです。 ――「厳しくしなければレクレーションと同じだ」という感覚でしょうか? 益子:おっしゃる通りです。私が学生だった頃にも、怒らない指導者さんがいるにはいたんですが、その人のチームは周囲からスポーツとみなされていなかったんです。「遊びじゃん」って、下に見られてました。

怒らずに指導する方法とは?

――そうした怒らない指導者さんは、怒らない代わりにどのように指導をしていたんですか? 益子:「今、どうしてこうなっちゃったの?」って、選手にとにかく聞くということですね。私が受けてきた指導は、ミスをしたら怒鳴られて終わりだったので、ミスをしてしまった原因を考えることもありませんでした。ですが、怒らず指導をしている方はとにかく「聞く」と「対話」を徹底するので、原因を考えて改善していくことができますよね。 ――アンガーマネジメントでは「怒りがわいたら6秒待て」と言いますが、スポーツで6秒待つことは不可能ですよね。怒らない指導のために、その代替となるものはありますか? 益子:アンガーマネジメントは覚えておいて損はないと思います。「監督が怒ってはいけない大会」では、試合をするだけではなくて開会の前に、指導者さんも含め怒らないためのセミナーもやっています。 ――その中で、指導者さんに具体的にはどんなことを伝えているんですか? 益子:「自分のことを知る」「自分の価値観に気づく」ということです。ミスをした選手をなぜ怒ってしまうのかを聞いています。すると「あの子は、あのプレーを何度も練習して頑張ってきたんだよ!」とおっしゃる方もいて、そうやって私に話したことで「そうか、ミスじゃなくてチャレンジなのか。怒らなくて済むかも」と気づいてくれたりします。 ――やはり、怒ってしまうのは「ミス」に対してが多いですよね。 益子:アンガーマネジメントだけではなく、脳科学や心理学を学んでいるんですが、その中でも「ミス」という言葉が脳や心に与える悪影響があるんです。「ミスするなよ!」と言われると、逆にミスをイメージしてしまいますよね。ただ、これが綺麗事だってことはわかってます(笑)。怒らないでいるって、本当に難しいことだと思います。
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学生スポーツの未来は?
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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