ロシアに翻弄されてきたジョージアの歴史
――イオセリアーニ作品群の中で“歌う”場面が多々登場しますが、本作では“男声合唱”について、練習風景も含めてかなり詳しく紹介されています。ジョージア人男性は、みなあんな素晴らしい合唱が出来るのですか!?
ティムラズ:ほぼ、みんな歌えますよ(笑)! もちろん人には得意不得意があるので全員が全員ではないですが、割と普通にみんな歌えます。人が集まると、何人かは必ず得意な人がいるので、その場で何となくパートを分けて歌い始めるんです。だからイオセリアーニ監督も、かなり詳しく描いたのでしょう。歌える人が“いい男”と思われる側面もあるんですよね(笑)。言うなれば、日本のお祭りのお囃子とか笛太鼓に通じる気がします。
――第2章はチャップリンの映画を観ているように、コミカルな味わいも感じられます。でも、観れば観るほどロシア(旧ソ連)に翻弄されてきた歴史を感じられます……。
ティムラズ:現在、我々の領土の20パーセントをロシアに不法占領されており、ロシアとは断交しています。‘22年、ロシアのウクライナ侵攻前にもウクライナと連帯を示そうと呼びかけました。それは外交上、非常に難しい行動でしたが、侵攻前までの短時間で13もの国々が連帯を示す運動に参加してくれました。常に我々をはじめ周辺諸国がロシアに対し、警戒してきたからだと言えるかもしれません。その一方で、ロシアの負の側面だけでなく、ロシアとの交流によって得たものも数多くあります。反ロシアのイオセリアーニでさえも『唯一、ゲオルギア』のなかで、ロシア(旧ソ連)による“光の部分”に触れています。例えば、産業的なところやインフラ整備などは、ジョージアだけでは実現できなかったでしょう。
唯一、ゲオルギア
――ヨーロッパとアジアの中継地点に位置するジョージア。その歴史は他国からの侵攻に抵抗する歴史でもあります。それなのに監督が「基本ジョージア人は大らかで愉快だ」と語っているように、他国に開かれた国民性だと感じました。
ティムラズ:確かにジョージア人にはユーモアがあり、みんなお人好し。だから騙されてしまうという側面がありますね。それを淡々と描いているのが、本作のスゴさだし面白さ。昔から周辺国に侵略され、戦ってきたなかで、だからこそユーモアを忘れず、大らかに物事を見る国民性が形成されたんだと思います。ジョージアでよく歌われる男声合唱の歌詞に、“暗くつらい日々、大変な日々がいっぱいあったけど、いい日もたくさんあった”なんです。そういう人生観なので、平和な日々のなかではとても大らかにすごしていますね。
「オタール・イオセリアーニ映画祭 ~ジョージア、そしてパリ~」
2023年2月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シアター・イメージフォーラムにて劇場初公開作品含む全監督作21本一挙公開!
@Otar_2023