お気に入りの日本映画は小津安二郎の『東京物語』
――今回の映画祭の中で、他におススメの作品がありましたら教えてください。
ティムラズ:初期は祖国に関するテーマを描いた作品が、非常に多いですよね。例えば『落葉』は、ワイン発祥の地であるジョージアのブドウ産業がソ連時代に痛めつけられ、いかに落ちぶれていったかを描いています。それを一人の若い青年、主人公のニコが疑問を投げかけますが、ソ連の統治下でそんなことを打ち出すのは当然ご法度でした。初期からイオセリアーニ監督は愛国心が強く、理想のジョージア像を描いてきたといえます。『歌うつぐみがおりました』も、とても好きです。両作とも若い頃に観て、とても感銘を受けました。監督は元々音楽畑出身ということもあり、感性の豊かさや繊細さや鋭さが、いろんなところで感じられます。
歌うつぐみがおりました
――ツイッターを拝見していると、大使はジョージアだけでなく、日本文化へも造詣が深く驚きます。どのような文化に親しまれてきたのでしょうか。
ティムラズ:過ごしてきた期間はざっくり日本とジョージアは半々くらいです。日本の高校、大学、会社に入ったのは、何処にいたら自分は最も役に立てるだろうか、と考えてきたからです。常に“自分は何者か”を考えてきましたし、人一倍、考えざるを得ない場面が人生で何度もありました。ピークに達したのは、高校時代です。ひとりでジョージアの高校へ転校し、祖父と暮らしました。そこで自分がジョージア人であること、誇るべきジョージアの様々な文化を意識するようになったわけです。一方で、当然ながら幼少期から日本文化に親しみ、小津安二郎の『東京物語』は、人間の表情もとても上手く映し出されていて、お気に入りの一本です。文学では夏目漱石や芥川龍之介が好きです。それこそ“自分は何者か”と悩んでいた高校生のとき、ジョージアに持っていったのは芥川龍之介の小説でした。
――34歳にして在日ジョージア大使という重責を担っているのは、日本では考えられません。
ティムラズ:日本とジョージアの間で、自分なりにコツコツ取り組んできたことが評価されたのだと思います。ジョージアには若い人、さまざまなバックボーンを持った人が活躍する土壌があります。大統領は女性ですし、首相は40歳です。首相は2期目で、1期目は31歳のときに就任しています。各大臣も非常に若い。韓国のジョージア大使も、私より少し年上の30代です。
――日本では大使を務めるのは年配の男性ばかりです。
ティムラズ:普段は意識していませんが、確かにその通りですね(笑)。40代の大使にもお会いしたことはないです。ただ若い分だけ、外交の場ではさらに頑張らなければいけないプレッシャーは強いですし、いろいろな経験と知恵をお持ちの日本の方々から吸収させていただこうと日々の業務に臨んでいます。たまには日本の若い方々とも、もっとお話がしてみたいとは思いますが……。
――大使の活躍もあり、これからますます日本でジョージアが注目されそうですね。
ティムラズ:おかげさまでジョージアのワインや食文化は日本にも広まってきました。一方で、まだまだジョージアの文化芸術については知られておりません。イオセリアーニ監督だけでなく、ジョージアにはほかにも世界的な映画監督は数多くいます。そして若い映画監督も続々と出てきていますので、イオセリアーニ映画祭を機に、日本のみなさまにジョージアの映画や文化芸術にも興味を持ってもらいたいですね。
<取材・文 折田千鶴子>
「オタール・イオセリアーニ映画祭 ~ジョージア、そしてパリ~」
2023年2月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シアター・イメージフォーラムにて劇場初公開作品含む全監督作21本一挙公開!
@Otar_2023