「この件、貸しですよ」と、軽く釘を刺す
『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術: ムダに「反応しない」。ムダに「争わない」。』(三笠書房)
Nさんとしては、Oさんに手柄を横取りされてばかりでは、面白くありません。
そこで、Nさんが考えたのが、「一言釘を刺しておく」という方法です。釘を刺すといっても、上司であるOさんに「僕の手柄を横取りするのはやめてください」などと、相手をあからさまに責めるのは得策ではありません。
この場合、冗談ともとれるような軽いノリで言うことがポイント。けっして、上司に対し、敵意をむき出しにしてはいけません。たとえば、
「この件、貸しですよ~」
「今度、おごってくださいね」
「忘れませんからね」
などと、あっさりと、一言だけ釘を刺しておくのです。その言葉に込められた真意は、「いつまでも黙っていませんよ。覚えていますよ。あんまりなめないでくださいね」というシビアなもの。
そのアピールによって、Oさんに無言のプレッシャーを与えたわけです。
Nさんからそう言われたOさんは、「何のことだ?」などととぼけていましたが、
Nさんが「またまた~、とぼけないでくださいよ!」と返すと、それ以上は反論してこなかったといいます。
Oさんも心の中では、Nさんの手柄を横取りし、自分の功績にしているのは十分にわかっているのです。Nさんが「いつまでも黙っていませんよ」とアピールしたことで、少なからず脅威に感じたのでしょう。
それ以来、たまにおごってくれたり、いい案件を回してくれるようになったそうです。
このように、手柄を横取りするようなやっかいな上司には、一言釘を刺しておく言葉の護身術がかなり有効です。「いつまでも黙っていませんよ」「あんまりなめないでくださいね」とアピールすることで、上司が好き放題するのをやめさせる抑止力になります。
ただ、相手は上司ですから、深追いは禁物です。あくまで一言だけにとどめておきましょう。
<TEXT/後藤千絵>
弁護士。1967年、京都府生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社、大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道を志す。2006年に旧司法試験に合格。08年に弁護士として荒木法律事務所に勤務した後、2017年に独立。スタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所を設立。離婚や相続など、家族の事案を最も得意とし、近年は「モラハラ」対策にも力を入れている