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子どもの自死が増加する「9月1日問題」。“声を出して相談ができない問題”への対抗策が模索される

「相談したくても相談できない」という子どもを一人でも減らしたい

――子どもアバターホットライン導入に際して、貴法人内でどのような議論がありましたか。 新行内:当初、メタバースを利用して相談事業をやろうと考えていました。意図としては、先ほど申し上げたように、情報量を維持しつつ自分を隠したままで安心してできる相談を実現させたいということです。ただ、私たちも理解が追いつかない部分のある技術なので、まずはZoomのアバター機能でやろうという方向で決定しました。幅広い選択肢を提示することによって、「相談したくても相談できない」という子どもを一人でも減らしたいと思っています。したがって、これからすべて新しい技術を駆使する方向へ舵を切るという意味ではなく、個々の相談者が自分にとって合う相談方法を見つけてもらえればと思っています。

「かわいい」という一言が屈辱的だった

――相談できない子どもを減らしたいという新行内さんの思いの源泉はどこにあるのでしょうか? 新行内:自分でも理由をはっきりと分析したわけではないのですが、もしかすると、思春期の経験が根っこにはあるのかもしれません。私は小学校高学年くらいの頃、今でいう「場面緘黙(かんもく)症」のような時期がありました。これは自宅などでは話すことができるのに、特定の状況や場面において話せなくなってしまう状態のことです。実際、当時の私は何か聞かれても首を縦や横に振ることで意志を表現していました。  私が子どもの頃は、「男の子らしい」とは「強くてたくましいこと」だとされていました。ところが私は、あるときに女の子から「かわいい」と言われてしまいました。今にして思えば、彼女たちに悪意はなく、むしろ褒め言葉として言ってくれたのだろうとわかります。ところが当時はそれが屈辱的で、否定されたように感じ、たいへん傷つきました。それ以降、女子とは一切話せなくなってしまったんです。  反面、文章を書いたり、創作意欲や表現欲求が人一倍ある子どもでもありました。表現したいけれど、伝えることができない……相反する感情をいつも抱えていた子ども時代でした。だから、「相談したいことがあるけど相談できない」という子どもの気持ちに触れると、思い出す感情がたくさんあります。
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相手の考えていることや悩んでいることを正確に理解したい
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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