“人のためになっている”実感がある
現在は朝6時に起床して、作業が深夜までかかってしまうこともある。元プロスポーツ選手とはいえ、丸一日の仕事で足腰が筋肉痛に。それでも充実感をにじませる。
「
毎日仕事があって、朝から晩まで元気に働けることがありがたいなって。あと、在宅のお客さんだったら直接お礼を言ってもらえたりするので、
“人のためになっている”という実感が得られるんです。綺麗になったことに感動してもらえたときは、前よりも自分が成長しているようで本当にうれしい。まだ仕事のスピードは遅いですが、ちょっとずつですが早く上手にできるようになってきました」
滝野さんが作業した現場のビフォーアフター(提供写真)
滝野さんが作業した現場のビフォーアフター(提供写真)
滝野さんが作業した現場のビフォーアフター(提供写真)
清掃の現場でお客さんから「元ドラゴンズの滝野選手ですか?」と気づかれることもあるというが「名古屋以外の東京でも知ってもらえているのは素直に嬉しい」と話す。SNSでは
“本職”としての清掃業についても発信するようになった。
「最近はYouTubeの目的も少し変わってきていて。清掃業の仕事をするなかで、自分のような病気を抱えている人に“合っている”と思って。業務に慣れてきたら基本はひとりで動くので、他人の目を気にしなくてもいいし、しっかりやれば文句も言われない。せっかくYouTubeチャンネルを持っているので、仕事についても発信して広めていきたい」
とはいえ、“お金を稼げる職業”の代表格であるプロ野球選手から普通のサラリーマンへ。収入面に関してはどうなのか……。滝野さんは「頑張り次第」と話す。
「いや、僕の場合は“プロ野球選手”といってもぜんぜん高給取りではなかったというか、あんまり稼げなかったんで。むしろ今は自分が大きくなれるチャンスなんじゃないかと思っていて。頑張りが評価されればお金に反映される仕組みなので、
“過去を超えたい”と思うし、その可能性がじゅうぶんにある。やるからには“事業拡大”など、高い目標を掲げていこうと思います」
プロ野球選手に対する未練は「一切ない」と言い、その表情は晴々としている。
「ようやく
“極めたい”と思える仕事が見つかったんで。戦力外通告後、何がいちばんツラかったのかと言えば、
自分が“何をすればいいのかわからない状態”だったことでした。いろんなサポートをしてくれるプロ野球選手会からは『セカンドキャリアを考えておきなさい』と常々言われていたのですが、現役でやっている選手としては考えられなくて。いざ選手生活を終えたあとに大変さが身に染みるというか。現実問題として、不本意な場所で働いている元プロ野球選手とかもいっぱいいる。
いろんなスポーツのプロ選手が引退後は右も左もわからなくなってしまうので、
僕の存在がセカンドキャリアを考えるきっかけとか、ひとつの道標になりたいと思っていますね。
僕が“この技術があれば生きていける”と思ったように、社長の理念には“
関わる人全員に技術と生きがいを”というのがあって。生きることに自信がない人も技術を身につけると、輝けるようになるんです。今の仕事にやりがいが見出せないなど、満足がいっていない人、派遣社員などで収入が厳しい人や、生活に不安を抱えたシングルマザー、人付き合いが苦手で引きこもってしまった人などの受け皿にもなっていきたいですね」
“人生100年時代”とも言われるなかで、一生をかけて向き合える仕事に出合えるのかどうか。プロスポーツ選手に限らず、不況が長引くなかで自分の仕事がいつどうなるのかなんてわからない。
戦力外通告から約1年後、滝野さんは“新たな挑戦”に目を輝かせていた。
<取材・文・撮影/藤井厚年>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):
@FujiiAtsutoshi