“戦力外”の元プロ野球選手の1年後。“本職”の清掃業で「過去を超えたい」と思えるようになるまで
「ここ1年間、とくに半年ぐらいはプロ野球選手引退後の“厳しさ”みたいなものをぜんぶ味わったんじゃないですかね。ただ、いろいろあったおかげで“今”があるので」
作業服に身を包んだ滝野要さん(27歳)が、すがすがしい表情で言う。昨年10月4日、プロ野球「中日ドラゴンズ」から戦力外通告を受け、その当日の様子をYouTubeで配信したことが話題を呼んだ。
昨年、戦力外通告からそのままYouTubeを始めた真意について、滝野さんは「批判も覚悟の上だった」と振り返る。
「金曜に電話があって、週明けの月曜に球団事務所に来てくれということで。クビになることは、あらかじめ察していたんですよね。少し考える時間があるなかで、さすがにセカンドキャリアを決めるまでには至らなかったんですが、なにかしらアピールをしたほうが次につながるのかなって。
もちろん、めっちゃ勇気がいりましたよ。SNSのアカウントを持っているだけでもアンチコメントがくるのに、YouTubeの動画なんていちばん炎上リスクが高いじゃないですか。それでも自分を出していき、全国の人たちに知ってもらいたいと思ったので」
動画では、球団事務所に向かう様子から記者会見後まで、“運命の1日”がありのままに映されていた。さらに自律神経の病気を抱えながら選手生活を送っていたことを公表した。
「プロに入った当初の23歳頃から症状があったんですよね。ずっと隠しながらプレーしてきた。ようやく人に相談できたのが去年、つまり辞めた年なんです。同じ病気の川崎宗則さんと人づてにつながって、自主トレとかも一緒にやらせてもらって、考え方とかも学ばせてもらって。前までは“治したい”と思っていたんですが、自分の特徴としてうまく“付き合っていく”というふうに変わっていきました。そのおかげで、今は日常生活には支障がないように体調管理ができるようになっています。
僕が病気を公表することで、世の中で同じように苦しんでいる人を少しでも勇気づけられたらいいなって。まあ、YouTubeをやるなんて自律神経によくないとも言われましたが(笑)」
離婚や家を引き払わなければいけないなどの厳しい現実や生活ぶりについてもYouTubeで明かしてきた。そして9月、身一つで名古屋から上京し、東京都港区の清掃業者に入社したという。
「野球を辞めてから、じつはいろんな会社から就職のお話をいただいていました。しかし結局はどれだけ条件がよかったとしても自分がやりたいとは思えなくて、すべて断ってしまったんです。やっぱり、“手に職をつけたい”というのが大きかった」
主な仕事内容としては、“現状回復”と呼ばれるもので、マンションやアパートなどの賃貸借物件で住人が部屋を退去してから入居前の状態に戻すこと。そこには事故物件の特殊清掃や遺品整理なども含まれる。また、ハウスクリーニングや清掃に関する業務全般を請け負っているという。
数ある仕事のなかで、一般的には“キツい”などのイメージもある清掃業を選んだ理由はなんだったのか。
「もともと掃除が好きだったんですが、年明けにYouTubeで『今後は清掃業をやります』って宣言したら、社長から連絡をいただいて。実際そのときは清掃業に関する知識も技術も何もなかったんですよ。やると言ってしまえば、やらなあかん状況になるので。あとは、どうにかなるだろうと……」
あれから約1年の月日が流れ、滝野さんは今年10月23日に『戦力外から1年。元プロ野球選手の現在の本職について』という動画を公開、どうやら大きな変化があったらしい。そこで今回は、詳しい話を本人に聞いた。
“戦力外通告を受けた日”をYouTubeで配信
名古屋から上京、港区の清掃業者に就職「手に職をつけたい」
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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